こぼれ話 ペルー編
こぼれ話 ロケ日記 第1話 マジですか?超クラクラするんですけど!
クスコ空港にて クスコの街を撮影中 航空機トラブルで到着が1日遅れたペルー。予定より丸1日ロケ日数が減ってしまうとともに、大幅な日程変更を余儀なくされた。当初は高山病対策としてゆったりとしたスケジュールを組んでいたのだが、日程が大幅に減少した我々に甘えは許されない。
クスコ空港に到着したスタッフみんなの第一声は、「やばい!なんかクラクラするんですけど!」言わずと知れたインカ帝国の首都クスコ、標高は3300m以上。出発前から「高原病に気を付けて!」と言われ警戒していたものの、やはりスイスのユングフラウ鉄道でも体験した恍惚のクラクラ感が優しくお出迎えしてくれた。さらに、我々の荷物は撮影機材を含めると200kgを超える。空港ではカートに積み込み自ら運ぶのだが、このカートが押しても押しても進まない。車輪があさっての方向を向いてまっすぐ進んでくれないのだ。さすが車輪の文化を持たなかったインカ帝国の末裔!などと悪態をつく暇もなく撮影に入る。アルマス広場、インカ時代の通り、博物館などを撮影していく。
旅人を寄せ付けないこんな「クラクラする位しんどい高地」に、世界最大の領土を誇ったインカ帝国の首都を築いた皇帝の偉大さを垣間見て、「マジですか!」の叫びを甲高く連発する我々スタッフであった。
常に愛らしいペルー鉄道
1851年に開通して以来、農産物や鉱物資源の輸送で活躍したペルー鉄道。道路事情があまり良くなかった近年まで、庶民の足としても重要な役割を担っていた。WOWOW開局一周年記念と銘打ち南米を取材した15年前の映像には、クスコからプーノへ向かう列車で、地元の人々と乗り合わせる和やかな光景が残っている。
アンデアン・エクスプローラー 時は移り、この路線を観光列車アンデアン・エクスプローラーが走っている。実質的に運行しているのはイギリス資本オリエント・エクスプレス社傘下のペルーレイル。さすが世界に誇る観光列車、サービスの良さとすばらしい風景はトップレベルだ。インカ帝国の名残を辿る旅は世界中の憧れであり、実は取材当日も、お忍びでイギリス王室の方が乗車されていた。民族音楽も多く演奏されるのだが、その1つ『サクサイワマン』はクスコを見下ろす遺跡の名をとり、女性のつれなさを歌っている。「一人で寝るのは淋しい、二人で寝るのは素晴らしい、三人で寝たら大混乱、四人で寝たら村が出来てしまう…」とユーモアあふれる愛らしい歌詞が続く。
チスモシータ 列車が走っている様子を映す「客観撮影」の際も、カメラマンは撮影ポイントで列車がいつ来るのか冷や冷やしながら待つものなのだが、ペルーは違う。事前に可愛らしい1両だけの車両が走ってくるからだ。通称「チスモシータ(スペイン語でおしゃべりな人)」という調査車両が、旅客列車が通る前に路線の安全を確認し、線路上を歩く人や家畜に可愛らしい警笛で注意を促す。プップッーと警笛を鳴らしながら走る姿が「おしゃべりやうわさ好きな女性」をイメージさせるのだという。標高4000mを行くアンデスの鉄道。(※高度図)険しい大地を進む列車は、我々を常にニンマリさせてしまう愛らしい鉄道でもあった。
高度図
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第2話 マジですか?超ウキウキするんですけど!
車内でのダンス ロケ2日目、午前8時。アンデアン・エクスプローラーは心地よい警笛を響かせて出発した。この列車、雄大な車窓風景はもちろん、カクテルパーティーやダンス大会、大地の神への儀式、乗務員の微妙なファッションショーなど片時も乗客を飽きさせない。ペルー料理とワインも絶品だ。しかし昼食時、常に偏頭痛をもたらす高山病を考慮し、スタッフは撮影に使ったワインにも口をつけなかった。ここで私の意地汚い性格がムクムクと湧き上がる。買い取ったワインを残すのはあまりに忍びない。まして日本ではあまりお目にかかれないペルー産ワインとあらば尚のこと…。
車内での演奏 車内で集音中 気がつけばボトルワインは蒸発したように消えていた。その後、展望車でのダンスショーを黙々と撮影するカメラマン小島氏や録音の村上氏を他人事のように眺めながら、乗客と一緒に踊りたい欲望を必死に抑えるダメダメディレクターがそこにいた。「マジですか!超ウキウキするんですけどー」と心の中で叫び、列車の旅を素で楽しんでしまった。
列車はチチカカ湖畔の町プーノに到着。私は更に失敗を重ねる。撮影にはやる気持ちを抑えきれず、三脚を担いで全速力で列車の頭部へと走ってしまったのだ。当然ながらクラクラはMAX。富士山より高い4000m前後の高地を駆け抜けてきたのだから当然だ。調子をこいていた私に、翌日地獄の高山病の症状が襲ったことは言うまでもない。
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第3話 マジですか?超ホッコリするんですけど!
高山病でダウンの牧野氏 負傷の小島さん 今回のペルーロケは、負傷者が相次ぐ苛酷なものであった。朝晩の激しい気温差から風邪をひいた録音の村上氏。一際強い偏頭痛に悩まされたビデオエンジニアの小田切氏。荷物を胸に強打し、包帯を巻きつつ撮影に挑んだカメラマンの小島氏。中でも最も自業自得、心身ともにダメダメだったのがディレクターの私であった。チチカカ湖撮影日、俯瞰を撮るべく早朝6時に高台へ向かう。淡々と仕事を進めるスタッフの中…「先生!牧野君の様子が変なんですけど!」 コーディネーターの井上さんに自ら告白する弱々しい私であった。激しい頭痛、下痢、体の節々の痛みなど高山病の症状を併発。急遽ホテルへ戻りボンベで高濃度の酸素を補給、薬を飲み昼過ぎまで安静、他のスタッフも小休止!となった。
アンデスの温泉 しかし、ホッコリすることも多かったペルー。チチカカ湖に浮かぶウロス島では、トトラという葦で島を作り、家を建て、船を浮かべて暮らす人々に出会った。常に笑い声が絶えない朗らかなウロス島の人々は、インカ時代から生活様式がほぼ変わっていないそうだ。高地ラ・ラヤ駅では、大きくなったら立派な家を建てて車でお母さんを旅に連れて行ってあげたいんだ!と目を輝かせる子供たちと出会った。土産物を必死に売り、生活を支える母親を尊敬しているという。アンデスの出湯、アグアス・カリエンテスでは大自然と人々の温もりを感じた。撮影とはまったく関係なく温泉に入った私の最初の一言は「マジですか?超ホッコリするんですけど」であった。
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第4話 マジですか?超ワクワクするんですけど!
ビスタドーム いよいよビスタドームでマチュピチュへ向かう。標高3398mのクスコ・サンペドロ駅から2038mのアグアス・カリエンテス駅へと下ってゆく。1200m以上下るため、スタッフ全員の高山病が和らぎ清々しい思いであった。そしてついに憧れのマチュピチュ遺跡へ!入り口から歩を進め、最初に眼前に広がった風景。それはまさに子供の頃、写真を見て興奮したマチュピチュの大俯瞰であった。「マジですか?超ワクワクするんですけど!」
立派な神殿もさることながら、よりトキメいたのは人々が生活した住居跡の台所や、水汲み場の跡などである。明るい笑い声が絶えないウロス島やアンデス高原オコバンバ村の人々が浮かび、美しい段々畑を望めば、今もインカ時代の段々畑を必死に守るオリャンタイタンボのへナロ・プーマさんの姿も目に浮かんだ。インカ時代からの生活や誇りを守る人々に先に出会ったからこそ、マチュピチュの風景の中に見たこともないインカ皇帝や庶民の生活をイメージすることができたのだと思う。
マチュピチュ この南米の旅、ご覧になった方には初回放送だけでなく再放送もチェックし、また後ほど発売されるDVDソフトもご購入いただき、繰り返し見ることをおすすめしたい。するとまた違った感想を得るに違いないと思うからだ。「マジですか?インカ帝国!」と叫ぶ我々スタッフの気持ちが伝わるかも…。そしてここまで読んでくださった律儀な方の声が私には聞こえてならない。「長い長い再放送視聴の嘆願とDVDの宣伝かよ!」と。
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