オン／オフの切り替えができるようになって、遠征が楽しくなりました

　私はジュニアの頃から海外遠征が大好きでした。遠征の日程が残り少なくなると、いつも「まだ帰りたくないッ!」という感じになっていましたね。オープンな性格なので、日本のチームで遠征に行っても、海外の選手と練習したり、ご飯を食べに行ったり。こうして、たくさんの海外の選手と接することができたので、それが語学力にもつながったし、そうした経験はプロになってからもいきたと思います。

　ただ、プロになった当初は、ジュニア時代の遠征とはギャップがありました。ジュニアとはまったく違う厳しさに打ちひしがれた時期もありましたね。

　よく考えてみると、その頃は、勝ちたいがためにまじめになりすぎていて、遠征に行っても会場とホテルの往復しかしてなかったと思います。それで「自分がやりたいことをやっているはずなのに、楽しんでないな」という思いが出てきて、だんだんホームシックになっていく自分がいました。試合に負けたら、そこから1日か2日オフをとってもいいのに、その間も練習して、なにか悶々としていたのです。

　そのうちに「あ、楽しんでないな。私はオンとオフの切り替えがもっと上手だったよな」と気がつきました。負けてしまって残念だけど、オフができたのだから、その土地を観光したり、おいしいものを食べに行ったり、そういうことしよう、と。こんなふうに思えるようになったのは、プロになって1年半から2年目くらいの間でしたね。

　なにしろ、ローマに遠征していても、コロッセオもバチカンも行ったことがなかったんです。選手の間で「バチカン、行った？」という話になっても、「何それ？」と。そういう感じでした。

　もちろんストイックであることも大切ですが、それ以前に、1シーズン、フルにツアーを回ってどれだけ健康な体と気持ちを保てるか、なんですよね。

　オリンピックは4年に一度ですから、選手はそこにピークをもってくるためにストイックに自分を追い込みますよね。でも、私たちテニス選手は1年を通して状態をキープしなければならないのでストイックなだけでは、やっていけません。

　前にも書きましたが、現役の頃は1年のうち8か月くらい海外遠征に出ていて、そうなると、遠征は旅というよりそれ自体がライフ、生活です。ですから、仕事とライフのバランスがよくないと、ただストイックなだけではやっていけないんです。遠征中でもリラックスする時間は大切。これが自分の生活なんだと割り切って、オンとオフを切り替えることが必要なのです。常に「オン」では、やっていけないんですよね。考えてみると、これは、どんな仕事でも共通して言えることかもしれませんね。