次世代のスーパースター候補カーン、元王者ピーターソンを迎え撃つ!
WBA・IBF世界S・ライト級タイトルマッチ
WBA・IBF世界S・ライト級チャンピオン
アミール・カーン
(イギリス)
元WBO暫定世界S・ライト級チャンピオン
レイモント・ピーターソン
(アメリカ)
充実の王者カーンに死角なし?
挑戦者の地元ワシントンで自信のV6戦
09年7月にWBA王座を獲得後、カーンは先のIBF王者ザブ・ジュダー(アメリカ)との統一戦を含め世界戦6連勝(3KO)と勢いに乗っている。近い将来のウェルター級進出も視野に入っており、ここは圧倒的な勝利で存在感を示しておきたいところだ。
対する挑戦者ピーターソンは元WBO暫定王者の肩書を持っている実力者。ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)との王座統一戦に敗れてから2年。地元で再びベルトを腰に巻くチャンスを得ただけに、あらゆる策を用いてくるはずだ。
ここ3年ほどのカーンの進境は著しいものがある。178センチの長身と恵まれたリーチを生かしたスピーディーなボクシングは、完成型に近づいているといえる。右ストレートを中心にパンチは威力を増しており、課題とされた耐久力もマルコス・マイダナ(アルゼンチン)らタフな強打者との戦いを勝ち抜いたことで合格ラインに到達。併せて評価も上昇中だ。いまやパウンド・フォー・パウンドの10傑に入るほどの高評価を得ている。群雄割拠のS・ライト級戦線の主役といっていいだろう。こうした成長の裏には3年前からコンビを組んでいる名匠フレディ・ローチ・トレーナーや、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズのバックアップがあることも忘れてはなるまい。
挑戦者のピーターソンは実力者としても知られるが、不遇な少年時代を送ったことでも有名だ。幼少時に父親が収監され、母親も育児を放棄してレイモント&アンソニー兄弟のもとを離れてしまった。そのため兄弟はワシントンDCで数年間、路上生活を続けていたと伝えられる。兄レイモントが10歳のときにバリー・ハンター氏が兄弟に援助の手を差し伸べるまで、ホームレス状態は数年間も続いたという。数年後、兄弟はハンター氏のもとでボクシングを始め、眠っていた才能を開花させたというわけだ。ハンター氏は現在ではピーターソン兄弟のマネージャー兼トレーナー、そして親代わりを務めている。
HAVOC(大破壊)という大仰なニックネームを持つピーターソンだが、ボクシングそのものはそこまでの強いインパクトは感じられない。カーンのような絶対的な武器があるわけではないが、しかしスピード、パワー、テクニックとも高い次元で整っている選手といえる。粘り強く戦うタイプだけに、相手にとっては決して与し易いとはいえないだろう。今回は地元での試合ということでモチベーションも高いはずだ。ファンの声援も背中を押してくれることだろう。
しかし、充実の王者有利は絶対的なものといえる。オッズは10対1とカーンの圧倒的有利を伝えている。ブラッドリーやビクター・オルティス(アメリカ=前WBC世界ウェルター級王者)にダウンを喫しているピーターソンが、カーンの鋭い右を受けて立っていられる保障はどこにもない。王者のKO防衛を推す声が多いのは当然ともいえる。
そうした一方、挑戦者の地元に自信満々で乗り込む王者に驕りや油断がないといえるかどうか。いささか他力本願的ではあるが、その点でピーターソンがカーンに付け入る隙はあるはずだ。
Written by ボクシングライター原功
ティモシー・ブラッドリー
S・ライト級トップ戦線の現状
WBAスーパー:アミール・カーン(イギリス)
WBA:マルコス・マイダナ(アルゼンチン)
WBA暫定:ジョアン・ペレス(ベネズエラ)
WBC:エリック・モラレス(メキシコ)
IBF:アミール・カーン(イギリス)
WBO:ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)
南米のスラッガー、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)、4階級制覇のエリック・モラレス(メキシコ)、無敗の「砂嵐」ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)と個性的なチャンピオンが揃うクラスだが、主役がアミール・カーン(イギリス)であることは誰もが認めるところであろう。期待されるカーン対ブラッドリーの頂上決戦に前進するためにも、2冠王者カーンにとって今回のレイモント・ピーターソン(アメリカ)戦は重要な位置づけになってくる。
ランカー陣も充実している。2月にウェルター級12回戦でマイダナと対戦するデボン・アレキサンダー(アメリカ)、3月にモラレスに挑戦するダニー・ガルシア(アメリカ)、4階級制覇に照準を合わせているウンベルト・ソト(メキシコ)、破格の強打を持つルーカス・マティセ(アルゼンチン)、無敗のスラッガー、マイク・アルバラード(アメリカ)らタレント揃いだ。前IBF王者ザブ・ジュダー(アメリカ)と無敗のバーノン・パリス(アメリカ)も3月にIBFの挑戦者決定戦で拳を交えることが決まっている。王座の行方とともに挑戦権争いも熾烈だ。
WBO世界フライ級タイトルマッチ
WBO世界フライ級チャンピオン
ブライアン・ビロリア
(アメリカ)
元WBO世界L・フライ級チャンピオン
ジョバンニ・セグラ
(メキシコ)
ハワイアン・パンチ VS アステカ戦士
序盤から激しい打撃戦必至
現在のフライ級では屈指の好カードが実現。11年7月にフリオ・セサール・ミランダ(メキシコ)を下して2階級制覇を成し遂げたビロリアは、これが初防衛戦。一方、WBAとWBOのL・フライ級王者だったセグラは2階級制覇を狙っての頂上アタックとなる。壷にはまると圧倒的な強さを発揮する「ハワイアン・パンチ」ビロリアと、8割のKO率を誇る勇敢な「アステカ戦士」セグラ。序盤から壮絶な打撃戦に突入しそうだ。
ビロリアは2000年のシドニー五輪に出場した経験を持つ31歳の右ボクサーファイター。05年にL・フライ級でWBC王座を獲得したのをはじめ、これまでに9度の世界戦を経験している(5勝2KO3敗1無判定)。KO率は5割を切るが、数字以上のパワーの持ち主といえる。
セグラは30戦28勝(24KO)1敗1分の戦績が示すとおりの強打者で、パワーで押しまくるファイター型だ。海外のトップ選手にしては珍しくアマチュア経験が12戦と少なく、そのために実戦向きのスタイルを選択したのかもしれない。生来の右利きだが機を見て左にスイッチすることも多い。「僕のパワーを警戒して逃げる相手を追い詰めるには最適のスタイル」とセグラは明かしている。
予想は勢いのあるセグラ有利に傾いているが、このメキシカンは肉を切らせて骨を断つタイプだけに常に高いリスクを抱えてもいる。ましてやパンチ力のあるビロリアが相手である。どう転ぶか分からない試合といえよう。ひとつ確実なことがあるとすれば、序盤から火の出るような打ち合いのすえKOで決着がつくという点であろう。
Written by ボクシングライター原功