“イギリスの至宝”カーン、元王者マリナッジを迎え撃つ!
WBA世界S・ライト級タイトルマッチ

WBA世界S・ライト級チャンピオン
アミール・カーン
(イギリス)

元IBF世界S・ライト級チャンピオン
ポール・マリナッジ
(アメリカ)
イギリスの至宝 VS 東海岸のマジックマン アメリカ初登場のカーンに注目
若く将来性豊かなタレントが揃うS・ライト級戦線。イギリスのプロモーターのもとを離れ、オスカー・デラ・ホーヤ率いるゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)と契約を交わしてアメリカ初登場のカーンに注目が集まる。コーナーに控える名匠フレディ・ローチ・トレーナーの指示も見ものだ。
パキスタンから移住してきた両親のもとイギリス・ボルトンで生まれたカーンは、11歳のときにボクシングを始めた。04年には17歳で世界ジュニア選手権優勝を果たし、アテネ五輪ではライト級で銀メダルを獲得、一躍「時の人」となった。「3年以内に世界チャンピオンになる。ナジーム・ハメドの21歳7ヵ月を破るイギリス史上最年少の世界チャンピオンになってみせる」と豪語してプロ転向を果たしたのは05年7月のことだった。
以来5年。“公約”は達成できなかったものの、昨年7月にはアンドレアス・コテルニク(ウクライナ)を攻め落として世界タイトルを獲得。12月には指名挑戦者を初回で屠って初防衛も飾っている。ハメド、レノックス・ルイス、リッキー・ハットンの後を継ぐイギリスのスター選手として、まずは順調な歩みを続けているといえる。
カーンのボクシングは左ジャブから入って右ストレートに繋ぐという比較的オーソドックスなものだが、際立ったスピードを持つため相手は対応できないまま被弾することが多い。課題とされる耐久力に関しては「階級を上げたことで減量苦から開放され、もう問題はない」とカーン本人は話す。しかし、この点に関してはもう少し長いスパンで見ていく必要があるだろう。
挑戦者のマリナッジは「マジックマン」の異名を持つテクニシャン。こちらはサッカーの元プロ選手を父親に持つイタリア系の29歳だ。16歳でボクシングを始め、全アメリカ大会で優勝するなどアマチュアで49戦40勝9敗の戦績を残した後、01年7月にプロデビュー。07年から08年にかけてIBF世界S・ライト級王座に君臨した実績を持っている。昨年、元3団体統一世界ライト級王者のファン・ディアス(アメリカ)との連戦(1勝1敗)で再び名を上げ、今回のチャンスをゲットした。
30戦27勝(5KO)3敗の戦績からも分かるように、パワーを売りにする選手ではない。その代わりスピードとステップワーク、勘の良さと勝負度胸を持ち合わせている。地元のアドバンテージもあり、5対1のオッズを引っくり返す自信に溢れているようだ。
単純にはスピード対決ということになろうが、直線的な動きの多いカーンに対しマリナッジは忙しく曲線的な動きを多用する傾向がある。マリナッジの行動範囲を狭めるためにも、カーンは速い左ジャブで煽る必要がありそうだ。そのうえで右の射程距離、タイミングが合うようだと、勝負は規定ラウンドをフルに使うことなく終わる可能性がある。
Written by ボクシングライター原功

ティモシー・ブラッドリー
S・ライト級トップ戦線の現状
WBA:アミール・カーン(イギリス)
WBA暫定:マルコス・マイダナ(アルゼンチン)
WBC:デボン・アレキサンダー(アメリカ)
IBF:デボン・アレキサンダー(アメリカ)
WBO:ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)
カーン=23歳、23戦22勝(16KO)1敗。マイダナ=26歳、29戦28勝(27KO)1敗、アレキサンダー=23歳、20戦全勝(13KO)、ブラッドリー=26歳、26戦25勝(11KO)1無効試合。多くの伸びしろを持った若くて才能豊かなチャンピオンが揃っている。実績面ではブラッドリーがトップを走るが、ほかの三者との差はわずかだ。そのブラッドリーはウェルター級転向も視野に入れており、今後の動向から目が離せない。また、アレキサンダーは前WBA王者アンドレアス・コテルニク(ウクライナ)との防衛戦を予定しており、こちらも勝負の行方が気になるところだ。
こうしたチャンピオンたちを若いビクター・オルティス(アメリカ)、技巧派ポール・マリナッジ(アメリカ)、ベテランのネート・キャンベル(アメリカ)らが追っている。
S・ライト級10回戦

WBA世界S・ライト級2位
ビクター・オルティス
(アメリカ)

元3団体統一世界ライト級チャンピオン
ネート・キャンベル
(アメリカ)
次期王者候補 VS ベテランの元王者 オルティスの若さが経験を凌駕か
タイトルこそかからないが、S・ライト級トップ戦線の今後を占ううえで興味深いカードといえる。
オルティスは「近い将来の世界チャンピオン」と目される23歳。幼少時に親が蒸発するなど波瀾万丈の半生を歩んでおり、サイド・ストーリーにはこと欠かない。ボクシングは7歳で始め、17歳でプロ転向を果たすまでアマチュアで161戦(141勝20敗)を経験している。04年6月にプロ初陣を飾ってから6年。29戦26勝(21KO)2敗1分のレコードを残している。この間、08年には法廷闘争を経てゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(GBP)に移籍。大試合の前座で腕と度胸を磨いてきた。昨年6月のマルコス・マイダナ(アルゼンチン)戦は若さを暴露するかたちに終わったが(6回TKO負け)、再起後は長いラウンドを戦って2試合ともTKO勝ちを収めている。
利き腕が右のコンバーテッド・サウスポーで、左ストレートと返しの右フックが強い。
対するキャンベルは「ギャラクシー・ウォリアー」の異名を持つ38歳。2年前には元3団体統一世界ライト級王者ファン・ディアス(アメリカ)を判定で破り、その座を取って代わった実績を持つ。しかし、11ヵ月後の初防衛戦を前に体重超過のミスを犯し、戦わずして王座剥奪の憂き目に遭っている。その半年後、S・ライト級に上げてティモシー・ブラッドリー(アメリカ)の持つWBOタイトルに挑んだが、負傷を巡って紛糾。結局、3回無効試合に終わっている。自業自得の面も含め、このところ受難続きとなっている。
しかし、いまだに総合力は高いものがある。変則的な動きのなかからパワフルな左右を繰り出し、徐々に自分のペースに巻き込んでいくタイプで、ベテランらしい狡猾な面も持っている。
スピードとステップワークで勝るオルティスとすれば、その利を生かして堅実にポイントをゲットしていくことが得策と思われる。
オルティスの攻撃力を考えれば正面から打撃戦を仕掛けて攻め落とすことも可能だが、キャンベルの強打とタフネスを考えるとリスクも高い。ここは無理にKOを狙わず、着実に加点していくなかで好機をつくるべきだろう。
Written by ボクシングライター原功
