The 56th GRAMMY AWARDS

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グラミー賞×丸屋九兵衛

[ 2013.2.09 ] ゲットー出身のビジネスマンと、暴走する天才ボンボンと。好対照な師弟コンビ、ジェイ・Zとカニエ・ウェスト

今回のグラミーで、コンビとしても各自単独でも、多数ノミネートされているジェイ・Zとカニエ・ウェスト。この師弟コンビについて、書いておこう。

リル・ウェイン、カニエ・ウェスト、ジェイ・Z、T.I グラミー賞
第51回グラミー賞でも共演を果たした二人。写真は左から、リル・ウェイン、カニエ・ウェスト、ジェイ・Z、T.I.

ジェイ・Zの名セリフに「俺はマーシー・プロジェクトでMBAをとった」というものがある。MBAとは、つまり経営学修士号だな。
「どこのレーベルも契約してくれないから」と自分がデビューするために会社を設立したことに始まり、そのビジネス手腕に驚いた大手レーベル(親会社)にCEOの座を任され、今や「ネルソン・マンデラとランチ」とサラッと語る国際的経営セレブとなったジェイ・Z。長らくニュージャージーを本拠地としてきたNBAチーム「ネッツ」の部分所有者となり、自分の地元ブルックリンに移転させたことも記憶に新しい。とにかく、ビジネスのセンスがあることは明白だから、「MBA」には納得だろう。

だが実は、この「MBA」とは実際の学位ではなく比喩。「マーシー・プロジェクト」とは、ジェイ・Zが生まれ育ったニューヨークはブルックリンの低所得者向け公営住宅の通称なのだから。つまりジェイ・Zは、ゲットー団地における「毎日がサバイバル」な環境で体得した交渉術をMBAと呼んでいるのだ。つまり「貧乏団地生活の中でビジネス・スキルを身につけた」ということであり、ロバート・フルガムの『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』に通じる極意である。

カニエ・ウェスト
カニエ・ウェスト

一方、そのジェイ・Zにフックアップされてプロデューサーとして開花、やがてアーティストとしてデビューし、今や師匠ジェイ・Zに負けず劣らずのセレブとなったカニエ・ウェスト。彼のバックグラウンドは師匠と全く違う。
まず、ニューヨークのゲットーではなく、シカゴ出身、そしてバックグラウンドは中流階級(※英語のミドルクラスとは、大富豪ではないものの、かなり金持ちの家庭のこと)。父親はジャーナリスト、母親は大学教授というインテリ家族だ(ただし離婚。カニエは母に育てられた)。こうしたミドルクラスの価値観が彼にもたらしたのは……ジェイ・Zとの、なんとも噛み合わない出会いだった。

2000年になるかならないかの話だ。
知名度の低い若手プロデューサーの一人に過ぎなかったが、そのサウンド作りの手腕を評価され、憧れのジェイ・Zと会うことになったカニエ。「よし、良い服を着ていかねば!」と思った。そこまではいい。だが問題は、彼が考える「良い服」が「おろしたてのMサイズTシャツ」だったことだ。今でこそ当のジェイ・Zがタイトな服を着るようになっているが、2000年前後のヒップホップ的価値観では、「男は黙ってXXXL」だった。Mサイズなんて言語道断なのだ、当時のヒップホップでは。
「新進気鋭のプロデューサーと会うつもりが、とんでもないオタクを引き当てちまった」というのが、その時のジェイ・Zの偽らざる心境だろう。実際、後にカニエは「あのときジェイの目は“コイツとは仕事できない!”と語っていた」と告白している。ええ、「目は心の窓」ですから。

ジェイ・Z
ジェイ・Z

とはいえ、サウンドは評価してもらったカニエは、その後、ジェイ・Zが指揮するレーベルからリリースされるラッパーたちに次々と曲を提供。遂には、2004年に自己名義のデビュー作『The College Dropout』を発表し、大ヒットを記録して今に至る、というわけだ。ただし、例のテイラー・スウィフト事件をはじめ、師匠ジェイ・Zに比べて事件が多い男でもある。女性関係のスキャンダルもいくつか。そして、服装センスのメチャさも……ときにスカートをはくからねえ、似合わないのに。
中流家庭で育ったインテリ非モテ青年が期せずしてモテ始めたことに起因する、どうにも止まらない暴走……ということだろうか。

噛み合ないようで噛み合っている、カニエ・ウェストとジェイ・Z。この師弟コンビが満を持して放ったのが、2011年の共演アルバム『Watch the Throne』であり、そこからの曲が今回のグラミーにもノミネートされている。 ただし、それを記念してのツアーでは、「ステージでハシャギ過ぎるカニエに、イラ立ちを隠せないジェイ・Z」という図が見られたとも。……出会いから10年以上経っても、やっぱり噛み合ってないんじゃないか?

そんな師弟コンビは、栄冠を手にできるのか否か。そのうえで、噛み合ない受賞スピーチが聞けるのか?! そんな意味でも、やはり目が離せない今回のグラミーなのだ。

文:丸屋九兵衛(bmr)

丸屋九兵衛

丸屋九兵衛

19××年、京都府生まれ。牡羊座、血液型不明。バカ田大学第一文学部哲学科人文専修に入り、5年かけて卒業。専攻は文化人類学もどき、卒業論文のテーマはヴードゥー教。その後、ちょっぴりイリーガルな商売を経て、94年10月20日に老舗ブラックミュージック雑誌『bmr』編集部に職を得る。ウソ八百な終業条件にもメゲず「惰性は力なり」を貫き、居座り続けて10ウン年。雑誌を経て、現在は同ウェブサイトの編集長を務めている。ラジオやトークイベントへの出演も多数。執筆家として他ジャンルへの進出も積極的で、得意分野はSF。

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