空の境界プロデューサー岩上敦宏氏スペシャルインタビュー ファンを興奮させた劇場版『空の境界』全七章の魅力と見どころをプロデューサー岩上敦宏氏に聞く!

モノの「死」を見る能力「直死の魔眼」を持つ少女・両儀式(りょうぎ・しき)。彼女の孤独な戦いを描いた伝奇小説『空の境界』は、カルト的な人気を誇るベストセラー小説だ。全七章からなる同小説を、各章ごとに全七部作として完全アニメーション映画化したのが今回一挙放送されるアニメ劇場版『空の境界』。2007年から公開が始まるとその高いクオリティにファンは熱狂、単館公開としては異例のヒットとなり、『空の境界』は一つのムーブメントにまでなった。今回は、第一章から第七章に加えて、シリーズ完結後に制作された「終章/空の境界」もオンエア。ファンを熱狂させた『空の境界』の世界を余すことなく伝える。本作の成り立ちに深くかかわった、プロデューサー岩上敦宏氏に、その魅力と見どころを聞いた。

『空の境界』は2007年から公開され、単館公開のアニメとしては異例のヒットを記録、大きなムーブメントを生んだ作品です。その理由はどこにあったと思いますか?
岩上:ファンの皆さんはご存じかと思いますが、奈須きのこさんが同人小説として最初に「空の境界」を発表した時、それを手にしたのはたった数人でした。それが、奈須さんの作ったゲーム『月姫』のヒットを経て、講談社から出版されることになりベストセラーになった。原作そのものが、こういうストーリーを持っている作品ですから、アニメ化といっても、「メジャー化しましょう。大々的に全国公開しましょう」という展開はまったく考えていませんでした。むしろ最初に原作小説を読んだ数人の方に代表されるコアな層にしっかり届くような、そんなアニメにしようと考えました。そういう姿勢が原作のファンのみなさんに届いたことが、結果として広がりを生むことにつながったのだと思います。
全七章を一章ずつアニメ化し、公開していくというスタイルもユニークでした。
岩上:映画化というと長大な原作でも2時間前後にまとめてしまうことが一般的です。でも『空の境界』はそれができない作品なんですよ。各章ごとに独立したストーリーを持っているし、時系列もバラバラ。これは各章ごとにアニメ化していったほうがいいだろう、と。ですから、奇をてらったことをやってやろうという気持ちはなく、これが「空の境界」の映像化としてはベストの形だという気持ちでした。当初は各章40分程度の上映時間でいけるんじゃないかと思っていましたが、実際制作してみると基本60分ぐらいで100分を超える作品も2本ある。今考えると当初の見込みはとても甘かったですね、プロデューサー失格です(苦笑)。だからアニメ制作をした制作会社ユーフォーテーブルさんは、本当にがんばってくれたと思います。劇場版『空の境界』は第一章「俯瞰風景」公開から第七章「殺人考察(後)」の公開までがおよそ1年8カ月。ユーフォーテーブルさんのがんばりがなければ、あのクオリティで、このペースで公開することはできませんでした。
公開して大ヒットとなった時には手応えを感じたのではないですか?
岩上:単館公開のレイトショーという変則的な上映でしたが、それでもお客様が大勢入ってくださいました。うれしかったですね。そして、なにより劇場の中に、独特の一体感があるのがよかったです。
今回、WOWOWで一挙放送になるわけですが、視聴者の皆さんにはどのあたりを楽しんでもらいたいですか。
岩上:HDかつ5.1chでTV放送されるのは今回が初めてですので、まずクオリティの高い映像と音響を体感していただきたいです。それから、一挙放送ということなので、続けて見ることで「こことここが繋がっているんだ」とか「この描写にはこういう意味があったんだ!」という発見がいろいろあると思います。初見の方だけではなく、劇場でご覧になった方も改めて見るとまた新鮮な気持ちで見られるんじゃないでしょうか。『ツイン・ピークス』など、ちょっとカルトな雰囲気のある海外ドラマに通じるところもありますから、そんなつもりで見ていただければうれしいですね。
具体的にこのシーンがお薦め、というのはありますか?
岩上:そういう質問はよく聞かれるんですけれど、全七章あるので「七人の子供のうちどれが好きですか?」と聞かれているようで、とても答えにくいんですよね(苦笑)。……たとえば第一章「俯瞰風景」のビルの上でのアクションシーンはアニメ『空の境界』を象徴するシーンになっていると思います。第三章「痛覚残留」は、ジェットコースタームービーとして一気に見られますし、第五章「矛盾螺旋」は演出的に挑戦していて、トリッキーな語り口は全七章の中でも特に独特のものになっています。『空の境界』は物語の軸が2つあります。一つは、主人公の両儀式(りょうぎ・しき)と黒桐幹也(こくとう・みきや)の関係。もう一つは式と最大の敵である魔術師の荒耶宗蓮(あらや・そうれん)の戦い。各章ごとに完結したストーリーになっていますが、全体をこの二つの軸が貫いていますので、それぞれの章のストーリーを楽しみつつ、この二つの軸がどう表現され、キャラクターの関係がどう変化していくかに注目していただくと一層おもしろく見られます。
WOWOWの視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
岩上:今、お話したように全七章どれも非常におもしろく出来ている作品です。さらに梶浦由記さんの音楽も非常に素晴らしいです。全七章を通じてわかる劇場版『空の境界』の世界を堪能していただければと思います。