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杉山愛 オリジナルコラム「愛's EYE」

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第242回 車いすテニスの国枝選手、上地選手へのエール

2016/02/24

■敗戦も一つのプロセス。今後のチャレンジに期待します

 全豪オープンの車いすテニスでは国枝慎吾選手、上地結衣選手ともシングルスの優勝を逃しました。特に全豪では無敵の強さだった国枝選手の初戦敗退には驚かれた方も少なくないでしょう。

 国枝選手とは去年のシーズンオフにお話しをする機会があり、精神的に充実しているという話を聞きました。

 彼は2006年に初めて世界ランキング1位になり、直後は一時的にモチベーションを失ったそうですが、その後はモチベーションが下がることはないと言います。

 彼の目指すところは、より完成された“コンプリートプレーヤー”で、今はそこに近づくための過程ととらえているようです。私はその境地に達したことがないので、なかなか知り得ない心境ではあります。ただ、車いすテニスも年々、プレーの激しさが増し、スピードもパワーも以前とは違うレベルに達しています。その分、トレーニングも進化しています。その中で長くトップにいるというのは、そういうことなのかと想像できます。今回の敗戦を見て、トップであり続ける難しさを改めて感じさせられました。

 今年のリオ・パラリンピックはもちろん、2020年の東京も視野に入れていると聞いています。年齢的にはすでに30代に入っていますから、ここからの1年1年は、20代での1年とは全然違うものになるはずです。絶対王者と言われる国枝選手でも、東京までその地位を保つことは決して容易なことではないと想像します。実際にこの全豪では、周りの選手が国枝選手を研究し、「シンゴを倒すぞ!」という意気込みを持っているのがひしひしと伝わってきました。これから先は、また新たなチャレンジになるでしょう。

 ただ、今回の負けで、また一つ大きくなっていく国枝選手もイメージできるのです。グランドスラムの全豪ももちろん大事な大会ですが、パラリンピックイヤーであることを考えれば、ここで負けておくことにはプラス面もあるのではないか、というのが私の正直な感想です。

 種目は違いますが、国枝選手と同じように“常勝”が宿命の女子レスリングの吉田沙保里選手も、これまでに団体戦などで意外な敗戦を喫することがありました。絶対王者と呼ばれるような選手にとって、こうした敗戦は、さらに向上するためのきっかけになるのではないでしょうか。敗戦を見つめ直し、整理し、次の実戦に向けて調整することで、敗戦を受け入れて逆に力に変えることができるのではないかと思います。

 多少調子が悪くても勝ててしまうと、課題が見えなくなるというか、ぼやけてしまうところがあるような気がします。だから、こういった結果が出たことで、今までと違った切り口で自分のプレーを見ることができるようになるのではないでしょうか。

 あくまでも私の視点であり、国枝選手がどう感じているかはわかりませんが、この敗戦は、確かに驚きではあるけれど、決して悪いことではないと思っています。

 上地選手もシングルスでは悔しい敗戦を経験しました。ただ、彼女のコメントはいつもプラス思考です。また、勝っても負けても「まだまだ」と自分に言い聞かせるように試合を振り返ります。思い描くテニスにはまだ到達していない、今はそのプロセスを踏んでいる--という意味のコメントが多いのです。

 彼女は“もっとこういうふうにしなくては目標にしている金メダルに届かない”ということを言葉にしているのだと思います。ですから、彼女の言葉を聞いていると、逆に、こういうテニスをしたら自分は金メダルが取れるという確実なものがイメージできているように思えますし、それは選手として強みでしょう。彼女自身、勝てるようになるのは時間の問題と思っているような気もします。

 彼女が今、取り組んでいるのはバックハンドのトップスピンで、これが自在に打てたらテニスの幅が広がるでしょう。彼女はこれを自分のものにしつつあります。勝ったり負けたりの現状ですが、テニスの幅を広げ、よりアグレッシブなテニスをするために通らなくてはならない道を歩いているのだと思います。

 私もよく技術的なマイナーチェンジをしていましたが、技術を習得し、それを実戦で使えるようにすること、使えるだけの自信を身につけるのは簡単なことではありません。ただ、それをしないことには先はないのです。上位選手もみな、そうしています。そうした柔軟性、素直さ、また、自分の現状を直視したり客観視できる目を持っている人でなければトップに行けないのだと思います。

 上地選手はそんな資質を持ったプレーヤーです。彼女にはあくなき探求心を感じます。トップに行く選手であるのは間違いありません。


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杉山 愛

杉山 愛
生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
グランドスラムダブルス最高成績:全豪準優勝(2009年)、ウィンブルドン優勝(2003年)、全仏優勝(2003年)、全米優勝(2000年)
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム連続出場の歴代2位記録(62大会・女子1位)を持つ。

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