6階級制覇王者のラスト・ファイト
相手は過去1勝1敗の宿敵
21世紀に入ってから世界のボクシングシーンを牽引してきたスーパースター、マニー・パッキャオのラスト・ファイト。相手は過去1勝1敗と星を分けている宿敵のティモシー・ブラッドリーだ。パッキャオとしてはKOで決着をつけてグローブを壁に吊るしたいところだが……。
パッキャオは01年にアメリカ進出を果たし、代役で出場した世界戦でIBFスーパー・バンタム級王座を獲得。その後はハードなマッチメークにもかかわらず強豪を次から次に屠り、世界的なスーパースターの座に上り詰めた。98年に19歳で手に入れたフライ級王座を含め、世界制覇したクラスは6階級に及んだ。超えた体重の壁は19キロ。ウェート制のボクシングでは常識を飛び越えた数字といえる。エリック・モラレス(メキシコ)を2度ストップし、ふた回りも大きいオスカー・デラ・ホーヤ(アメリカ)にも8回終了TKO勝ち。リッキー・ハットン(イギリス)を左の一撃で失神させ、ミゲール・コット(プエルトリコ)も粉砕――結果だけでなく、相手に臆せずに向かっていく戦闘スタイルは国境を越えて多くの人々の胸を熱くさせたものだ。
この5年間、直近の10戦はKO勝ちを逃しているが、6度のダウンを奪ったクリス・アルジェリ(アメリカ)戦でも分かるように、パンチの破壊力は衰えてはいない。敗れたとはいえ昨年5月のフロイド・メイウェザー(アメリカ)戦でも、天才に脅威を与えたものだ。
そのメイウェザー戦後、パッキャオは痛めていた右肩の手術に踏み切った。リハビリに務めたこともあってブランクができ、これが11ヵ月ぶりのリングとなる。「肩は完治。まったく問題ない」と6階級制覇王者は不安説を一蹴している。パッキャオは10年5月にフィリピンの下院議員に当選してからは二足の草鞋を履いてきたが、5月に行われる上院議員選挙に出馬するためボクサーとしての活動はこれが最後になるという。引退前から復帰待望論があるなか、パッキャオは「今後はフィリピンの国民のために働く」と話している。
今回のパッキャオの引退試合の相手候補としてはブラッドリーのほかにテレンス・クロフォード(アメリカ=WBO世界スーパー・ライト級王者)、アミール・カーン(元WBA、IBF世界スーパー・ライト級王者)の名前が挙がっていた。そんななか、ブラッドリーが選ばれたわけだ。かつて自分が判定勝ちを収めたブランドン・リオス(アメリカ)にブラッドリーが9回TKO勝ちを収めた試合を見たパッキャオは、「彼は以前よりも強くなっている。だから戦いたいんだ」と選択理由とモチベーションの在処を説明している。
パッキャオとブラッドリーは12年6月と14年4月の2度、WBO世界ウェルター級タイトルをかけて拳を交え、ともに判定で1勝1敗と星を分けている。ちなみに再戦で王座を失ったブラッドリーは昨年6月、ジェシー・バルガス(アメリカ=現WBO王者)に勝ってベルトを取り戻したが、指名防衛戦よりもパッキャオとの決着戦を優先するために王座を返上している。こちらも決着戦に並々ならぬ意欲を燃やしていることが分かる。
オッズは2対1でパッキャオ有利と出ているが、今回も接戦が予想される。バルガス戦後に指導者をテディ・アトラス・トレーナーに変えたブラッドリーは「前の2戦とは違った戦いになるかもしれない」と技術戦に含みを持たせるコメントを発しているが、ライバルが仕掛けてくれば自然と強気な姿勢を前面に出すものと思われる。今回もサウスポーのパッキャオが右ジャブから左ストレートで突っかけ、「砂嵐」の異名を持つブラッドリーが回転の速い左右の連打で応戦するというパターンが予想される。初戦、再戦のようなテンポの速い迫力のある攻防が見られそうだ。
Written by ボクシングライター原功
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA :キース・サーマン(アメリカ)
WBA暫定:ダビド・アバネシャン(ロシア)
WBC :ダニー・ガルシア(アメリカ)
IBF :ケル・ブルック(イギリス)
WBO :ジェシー・バルガス(アメリカ)
フロイド・メイウェザー(アメリカ)が引退し、マニー・パッキャオ(フィリピン)も今回のティモシー・ブラッドリー(アメリカ)との試合を最後に引退すると表明しており、ウェルター級は新しい時代を迎えようとしている。次代のエース候補としては、WBA王座を6度防衛中のキース・サーマン(アメリカ=27戦26勝22KO1無効試合)、今年1月にWBC王座についたダニー・ガルシア(アメリカ=32戦全勝18KO)、そしてIBF王者のケル・ブルック(イギリス=36戦全勝25KO)が横一線に並ぶ。実績で勝るサーマンは6月に前IBF王者ショーン・ポーター(アメリカ)とのV7戦が予定されている。
前評判の高かった08年北京五輪戦士サダム・アリ(アメリカ)を9回TKOで破ってWBO王者になったジェシー・バルガス(アメリカ=28戦27勝10KO1敗)は、ガルシアと同じくスーパー・ライト級に続く2階級制覇組だ。11試合もKOから遠ざかっていたが、アリ戦では見違えるように溌剌とした動きを見せた。26歳という年齢からみても、さらなる上積みが期待できそうだ。
無冠組では、スパーリング・パートナーを務めたこともあるメイウェザーから「彼こそ私の後継者」と推薦されたエロール・スペンス(アメリカ=19戦全勝16KO)に注目したい。このほか21戦全勝(15KO)のサウスポー、サミー・バスケス(アメリカ)も楽しみな存在だ。若手の台頭が目立つなか、5月にダビド・アバネシャン(ロシア)の持つWBA暫定王座に挑む44歳のシェーン・モズリー(アメリカ)の存在も気にかけておきたい。
資料1 パッキャオ対ブラッドリー(1)
12年6月9日 @ラスベガス/
MGMグランドガーデン・アリーナ
※WBO世界ウェルター級タイトル戦(パッキャオのV4戦)
※オッズは5対1でパッキャオ有利
※パッキャオに2600万ドル最低保障+PPVの歩合
ブラッドリーは500万ドル+PPVの歩合
※115対113 ブラッドリー
115対113 ブラッドリー
115対113 パッキャオ
資料2 パッキャオ対ブラッドリー(2)
14年4月12日 @ラスベガス/
MGMグランドガーデン・アリーナ
※WBO世界ウェルター級タイトル戦(ブラッドリーのV3戦)
※オッズは7対4でパッキャオ有利
※パッキャオに2000万ドル以上の最低保障+PPVの歩合
ブラッドリーは600万ドル+PPVの歩合
※118対110 パッキャオ
116対112 パッキャオ
116対112 パッキャオ
資料3 <TALE OF THE TAPE>
パッキャオ | ブラッドリー | |
生年月日/年齢 | 1978年12月17日/37歳 | 1983年8月29日/32歳 |
出身地・国籍 | キバウェ(フィリピン) | キャセドラル(米カリフォルニア) |
プロデビュー | 95年1月 | 04年8月 |
身長/リーチ | 169センチ/170センチ | 168センチ/175センチ |
アマ戦績 | 64戦60勝4敗 | 約140戦(戦績は不明) |
タイプ | 左ファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
トレーナー | フレディ・ローチ | テディ・アトラス |
戦績 | 65戦57勝(38KO)6敗2分 | 36戦33勝(13KO)1敗1分1無効試合 |
世界戦 | 20戦15勝(8KO)3敗2分 | 14戦11勝(2KO)1敗1分1無効試合 |