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第328回 大坂なおみ選手の今季の成長と課題
戦術理解、対応力が課題ですが、そこに大きな伸びしろが見えます
全米で3回戦に進出し、アジアシリーズでも活躍が期待された大坂なおみ選手。香港ではビーナス・ウイリアムズを破り、ベスト8に入りましたが、それまでは、日本で行われた2大会を含む4大会連続で1回戦負けと、期待に応えることができませんでした。
彼女がもともと持っている魅力はパワー、サーブ力やフォアハンドの破壊力、バックハンドのダウンザラインの決定力です。16年はメジャーデビューの年でしたから、上位の選手にあまり知られていなかったこともあって、パワーで相手をびっくりさせ、圧倒し、四大大会で3度の3回戦進出という成績を残しました。ただ、今のいいときのテニスと比べると、去年はまだまだ単調でした。相手の変化に対応できなかったり、自分自身のテニスにも変化や幅がなかったように思います。ほとんど打ち勝つことだけでポイントを取っていたのが去年の大坂選手でした。
今年のいい時は、例えば全米でのアンジェリック・ケルバー戦を見ても、戦術的に幅がでてきて、効果的なプレーを加えることができています。例えば、ただ速いサーブを打つだけではなくて、少しスピードは落ちても回転をかけてコントロールしたり、ラリーでも少しループをまじえて時間を作ったり、コントロールショットをしてから中に入って早めに攻撃したりと、相手にとって嫌なテニスになりつつあると感じます。
これはテニスの奥深さの表現で、どの選手も意識することですが、習得は簡単ではありません。彼女はジュニア年代からパワーで押しきることができて、その勢いのままトップ100に入りました。テニスをシンプルに考えてプレーすることでここまで来たのですが、少しシンプルに考えすぎるところもあったので、昨年からコーチについたデイビッド・テイラーはじめ、彼女のチームは引き出しを増やすことを課題にしてきました。理解するまで少し時間がかかったと聞きましたが、ケルバーを破るなど、いい結果がいいタイミングで出てきてよかったと思います。
引き出しの数は絶対的に必要なので、増やすことができないと、この先、厳しくなります。今は戦術の理解度を高め、対応力を増やしている段階だと思います。ですから、それがはまる日は思い通りプレーできて、ケルバーに勝ったりビーナスに勝ったりと、トップ10選手を破っていますが、まだそこまでの安定感がないというのが現状でしょう。
相手にそれを出させないように工夫されてしまうと、そこでの対応力がまだもの足りません。もちろんそこは彼女の伸びしろだと思うので、そういう意味では、無限の可能性を秘めていると思います。
大会や対戦相手によって集中力にムラがあるとも言われていますが、大舞台や強豪に強いというのは、選手だった私の意見としては、うらやましいことです。どんな試合でもモチベーションを保つことは大切で、また、すべての試合が選手にとって意味のあるものですが、「ここで自分のテニスを出しきりたい」という場面こそで力を出せる強さはトップ選手に必要な要素で、そこは彼女の魅力です。もちろん、モチベーションが上がらないところでどれだけ自分を鼓舞できるかというのも、トップにいくには絶対に必要な要素です。
プレーの幅という話に戻りますが、戦術への理解を深めていくと、各場面でのチョイスが増え、迷いが生じることがあります。「どうしたらいいの?」という迷いは、例えば全米3回戦のカイア・カネピ戦でも見られました。そうなってしまったことで、あの試合では自分自身と戦っていた部分があったと思います。そこがなかなか簡単ではないところなのです。
今まではそんなに深く考えず、“つなげるのか打つのか”くらいだったと思うのですが、“どう攻めるか、どう守るか”とチョイスが増えれば増えるほど判断力が求められます。したがって、選手としてのマチュアさ(成熟度)とともに、練習でどれだけ理解を深めて自分のものにできるかが、彼女のこれからのテニス人生を左右することになると見ています。
あとは気持ちの持ち方ですね。マジメで、完璧を求めるところがある選手だと思います。これは練習では絶対に必要な要素であり、技術や戦術を突き詰め、目指すテニスを追い求める姿勢は彼女が現役を退くまで続くと思います。ただ、それは練習で求めることであり、試合では逆に「あ、今日はこういう状態だからこれでいいんだ」というような開き直りだったり、いい意味での妥協点があると、もう少し楽に戦えるように思います。
彼女の試合を見ていると、時々、完璧を求めすぎて苦しくなっているのがわかるので、そこで「しょうがない」とか「そうか、これでいいのか」と柔軟にプレーできるようになると、本人も楽になるでしょうし、勝ち星もついてくるような気がします。
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