5年ぶりのKOを狙うパッキャオ
アルジェリはアウトボクシングに活路
今春の時点で誰がこのカードを予想しただろうか。4月、パッキャオはティモシー・ブラッドリー(アメリカ)に12回判定勝ちを収め、約2年ぶりにWBO世界ウェルター級王座を奪回。その2ヵ月後、元スパーリング・パートナーであり秋にはパッキャオとの対戦が有力視されていたWBO世界S・ライト級王者、ルスラン・プロボドニコフ(ロシア)が初防衛戦で不覚。その相手がアルジェリだった。こうした結果を経てパッキャオ対アルジェリという今回のカードが決定したわけだ。アルジェリが1階級下の選手ということもあり、試合は両階級の中間、144ポンド(約65.3キロ)の契約体重で行われる。
パッキャオは6階級を制覇したスーパースターで、98年から14年にかけて世界戦だけでも18戦を経験している(14勝7KO2敗2分)。世界戦以外でもオスカー・デラ・ホーヤ(アメリカ)、エリック・モラレス(3度)、マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)、リッキー・ハットン(イギリス)といったトップ選手たちと拳を交えてきた。実績、実力、知名度、カリスマ性といったスターに必要な要素のほとんどを兼ね備えた選手といえる。ただし、階級を上げてきた疲労と年齢からくるものなのか、近年は必ずしも完璧なパフォーマンスができているわけではない。ブラッドリーとの初戦で判定負けを喫したときは同情の声が多かったが、2年前のファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)との4度目の対決ではカウンターの右一発で失神KO負けを喫している。この2試合以外は勝っているが、09年11月のミゲール・コット(プエルトリコ=現WBC世界ミドル級王者)戦を最後に5年、実に8試合もKO勝ちから遠ざかっているのだ。12月には36歳になる「パックマン」にも徐々に黄昏が忍び寄っているということだろうか。それが杞憂なのか、それとも現実のことなのか、今回のアルジェリ戦で一定の答えが出そうな気がする。
一方、挑戦者のアルジェリはイタリア系の父親とアルゼンチン系の母親の下に生まれた俳優顔負けのイケメンで、この試合で超大物を食うようなことがあると一気にブレークする可能性も秘めている。アメリカでは珍しくアマチュア経験はないが、代わりにキックボクシングで20戦のキャリアを積んでいる。キックボクシングのウェルター級とスーパー・ウェルター級の世界王座を獲得した実績を持っているほか、中国拳法でも段位を取得しているという。大学で栄養学の修士号を取得しているインテリでもある。ボクシングもしっかりと計算されたもので、178センチの長身と183センチという恵まれた体格を生かしたアウトボクシングを身上としている。プロボドニコフ戦では初回に2度のダウンを喫したが、その後は極力リスクを排除したボクシングに徹し、2対1の判定勝ちを収めている。一発の破壊力ではパッキャオに及ばないが、アルジェリ自身はそれを受け入れたうえで「一発一発のパワーは大したことがなくても、それを繰り返してヒットしていけばダメージを与えることはできる。そうやって終盤に勝負をかけてKOに持って行くことが理想のパターン」と話している。
攻撃力、経験値、引き出しの数など総合的な戦力で勝るパッキャオ有利は絶対的とさえいえる。鋭く踏み込んで相手のボディを攻め、そのうえで顔面に左ストレートを切り返してKO勝ち――というのがベスト・シナリオであろう。身長で9センチ、リーチで13センチも勝るアルジェリを想定して、パッキャオは元ウェルター級上位ランカーのマイク・ジョーンズ(アメリカ)やWBC世界S・ライト級1位のビクトール・ポストル(ウクライナ)らを相手にスパーリングを重ねたことで、「アルジェリ対策は万全」(フレディ・ローチ・トレーナー)と伝えられる。
サウスポーのパッキャオが早い段階で距離を縮めることができれば5年ぶりのKO勝ちが見えてくる。逆にアルジェリが足と左で距離をキープするようだと勝負は長引く可能性が出てくる。
Written by ボクシングライター原功
TALE OF THE TAPE
パッキャオ | アルジェリ | |
生年月日/年齢 | 1978年12月17日/35歳 | 1984年3月2日/30歳 |
出身地 | フィリピン | アメリカ |
アマ戦績 | 64戦60勝4敗 | キックで20戦全勝 |
プロデビュー | 95年1月 | 08年4月 |
獲得世界王座 | フライ級 S・バンタム級 S・フェザー級 ライト級 ウェルター級 S・ウェルター級 |
S・ライト級 |
身長/リーチ | 169センチ/170センチ | 178センチ/183センチ |
タイプ | 左ファイター型 | 右ボクサー型 |
プロ戦績 | 63戦56勝(38KO)5敗2分 | 20戦全勝(8KO) |
マニー・パッキャオ
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA SC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA暫定 :キース・サーマン(アメリカ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :ケル・ブルック(アメリカ)
WBO :マニー・パッキャオ(フィリピン)
多少の浮き沈みはあるものの、この数年はフロイド・メイウェザー(アメリカ)とマニー・パッキャオ(フィリピン)の2大スターの並走が続いている。バックについているテレビ局やプロモーターが異なるため直接対決が実現していないのが残念だが、ここに来て従来とは少し違う動きも出てきており、来年に期待をしたい。そのためにもパッキャオは今回のクリス・アルジェリ(アメリカ)戦を内容のある勝利で飾りたいところだ。IBF王者ケル・ブルック(イギリス)も今後に期待がもてる選手といえる。王座を奪った8月のショーン・ポーター(アメリカ)戦は相手も実力者ということで大差をつけるまでには至らなかったが、スピードを生かした正統派のボクシングはイギリスのファンならずとも期待度大といえる。9月に暴漢に襲われて太ももを刺されて負傷したため、初防衛戦は来年の2月か3月か予定されている。その相手として噂に上がっているのがファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)だ。すでに41歳になったマルケスだが、ブルックに勝てば5階級制覇となるだけにイギリス行きも十分に考えられる。WBAの暫定王者キース・サーマン(アメリカ)も故障のため4月から試合間隔が空いているが、12月にはレオナルド・ブンドゥ(イタリア)を相手に防衛戦が決まっている。
無冠組では、メイウェザーへの挑戦を目指すアミール・カーン(イギリス)とデボン・アレキサンダー(アメリカ)が12月13日に直接対決を行うことが決定している。挑戦に名乗りをあげるためには内容のある勝利が必要になるだろう。12月に再起戦を予定しているティモシー・ブラッドリー(アメリカ)、ロバート・ゲレロ(アメリカ)、ポーター、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)といった王者経験者の巻き返しにも要注目だ。
※11/13時点のデータを掲載しております。