最強決定トーナメント「WBSS」決勝戦
モンスター vs フィリピンの閃光

  • 2019/11/01

 3階級制覇を成し遂げているWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(26=日本/大橋)が、5階級制覇の実績を持つWBA同級スーパー王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)と拳を交える。この試合は2団体の王座がかかるタイトルマッチであると同時に、階級最強を決めるトーナメント、「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」シーズンⅡのバンタム級決勝戦でもある。世界に名を轟かせる「モンスター」と、すでにレジェンドの域に達している「フィリピーノ・フラッシュ(フィリピンの閃光)」。スリリングな攻防とKO決着濃厚な注目ファイトだ。

世界戦で8連続KO中の井上に死角なし

 井上はスピードやパワー、テクニック、スタミナ、インテリジェンスなどボクサーが必要とする要素を極めて高い次元で備えた万能型といえる。強打を直撃されたことがないことから耐久力に関しては未知とされるが、トップ選手たちとの戦いを見るかぎり問題ないと判断していいだろう。なにしろアマチュア81戦(75勝48KO6敗)、プロ18戦(全勝16KO)を通じて顔面カットはおろか鼻血すら流したことがないのだから、打たれ強さの度合いをチェックしようがない。見方を変えればこれこそが究極かつ理想のタフネスともいえよう。
 プロデビューしてから10月で7年が経ち、総試合数も18になった。決して多いわけではないが、6戦目以降の13試合が世界戦なのだから中身が濃い。もちろん13戦すべてで勝利を収めており、そのうち12度はKO(TKO)で終わらせている。118ポンド(約53.5キロ)が体重リミットのバンタム級選手の戦績とは思えない数字だ。また、アメリカやイギリスでの試合を経て経験値も大きくアップしている。ライト・フライ級を皮切りにスーパー・フライ級、バンタム級と3階級で世界制覇を果たし、目下8連続KO中と勢いは止まるところを知らない。ボクサーの総合的な強さの指標ともいえる「パウンド・フォー・パウンド」でもワシル・ロマチェンコ(31=ウクライナ)やテレンス・クロフォード(32=アメリカ)らとトップ争いを展開しているほどだ。
 今回は自身が望んで参戦したWBSSの決勝戦、しかも対戦を熱望していたドネアが相手ということで一段と高いモチベーションが感じられる。10月18日の時点でバンタム級リミットまで約4キロと体重調整も順調に進んでいる様子だ。こうしてみる限り、いまの井上に死角は見当たらない。あえて未知の部分を探るとしたら、弟の拓真の試合後、どんな精神状態でリングに上がるのかという点ぐらいだろう。

バンタム級では5勝4KOのドネア

 ドネアはフライ級からフェザー級までの5階級で戴冠を果たした世界的なスター選手で、36歳の現在もトップで活躍している。世界戦だけでも21戦(17勝11KO4敗)している。活動拠点とするアメリカのほか母国フィリピン、プエルトリコ、中国特別行政区マカオ、イギリスで世界戦のリングに上がったことがあり、経験値では井上の上を行く。無敗だったビック・ダルチニャン(アルメニア/オーストラリア)、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)、ライアン・バーネット(英国)らに初の黒星を与えており、勢いのある相手との対戦も経験済みだ。
 12年から18年4月までドネアはスーパー・バンタム級、フェザー級に上げて戦っていた時期がある。このころは体格のハンディキャップもあり15戦11勝(6KO)4敗と勝率を落としていたが、WBSS参戦のためバンタム級に戻ってきた。初戦の準々決勝ではWBAスーパー王者のバーネットが腰を痛めたため棄権したという事情はあるものの4回終了TKO勝ち。準決勝はWBO王者のゾラニ・テテ(31=南アフリカ共和国)と統一戦を行う予定だったが、テテが肩を痛めたため試合3日前に離脱。これを受けリザーバーとして準備していた世界ランカーのステファン・ヤング(31=アメリカ)と対戦し、ドネアは鮮やかな左フックで6回KO勝ちを収めた。この2試合を含めバンタム級では合計5戦して全勝(4KO)と負け知らずだ。体格から判断しても、やはりこのクラスがベストなのだろう。
 ドネアのベストショットが左フックであることは広く知られている。8年前、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)を戦慄的な2回TKOで破ってWBCとWBO世界バンタム級王座を奪った試合では、被弾して痛烈なダウンを喫したモンティエルのテンプルが陥没していたという逸話が残っているほどだ。その左をフェイントにつかって繰り出す右ストレートにも威力がある。

一太刀で決まる短期決戦か それとも頭脳戦か

 ともに相手のことをリスペクトしており、事前の研究と対策も十分だと思われる。そのため、まずはフェイントを交えながら探り合う展開で始まることになりそうだ。ピリピリした空気が漂うなか、ふたりとも相手の呼吸を読みながら左フックと右ストレートを打ち込むタイミングを計ることになるだろう。「宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いみたいになるかもしれない」と親日家のドネアが言うように、どちらかの強打がクリーンヒットした時点で試合は終わる可能性もある。それが仮に1ラウンドの20秒であっても不思議ではないカードといえる。
 その一方、頭脳戦になることも考えられる。この試合に際して井上が重要視している左ジャブに対し、同じタイミングでドネアが左フックを狙う。それを見越して井上が左フックを狙う。さらにドネアもカウンターを合わせようと試みる――先の先の先を読み合うチェスのような戦いになる可能性もある。戦う両雄はもちろんだが、観戦者も集中力を切らせないようにする必要がありそうだ。カギになるパンチを挙げるとしたら井上は左ジャブ、左ボディブロー、ドネアは左フック、右ストレートか。

<資料1>WBSS バンタム級トーナメント



<資料2>TALE OF THE TAPE 井上尚弥&ドネア データ比較表

  • 名前

    井上尚弥

    ドネア

  • 生年月日/年齢

    1993年4月10日/26歳

    1982年11月16日/36歳

  • 出身地

    神奈川県座間市

    タリボン(フィリピン)

  • アマチュア実績

    11年世界選手権出場(3回戦敗退)

    2000年全米選手権優勝

  • アマチュア戦績

    81戦75勝(48KO)6敗

    86戦78勝(8KO)8敗

  • プロデビュー

    12年10月

    01年2月

  • 獲得王座

    WBC ライト・フライ級
    WBO スーパー・フライ級
    WBA バンタム級

    IBFフライ級
    WBA暫定Sフライ級
    WBA、WBC、WBOバンタム級
    IBF、WBO Sバンタム級
    WBAフェザー級

  • プロ戦績

    18戦全勝(16KO)

    45戦40勝(26KO)5敗

  • KO率

    89%

    58%

  • 世界戦の戦績

    13戦全勝(12KO)

    21戦17勝(11KO)4敗

  • 身長/リーチ

    165センチ/171センチ

    171センチ/173センチ

  • 戦闘タイプ

    右ボクサーファイター型

    右ボクサーファイター型

  • ニックネーム

    「モンスター」

    「フィリピーノ・フラッシュ」

  • トレーナー

    井上真吾(父親)

    ケニー・アダムス

バンタム級トップ戦線の現状

WBA SC :ノニト・ドネア(フィリピン)
WBA    :井上尚弥(日本/大橋)
WBC    :ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)
WBC 暫定 :井上拓真(日本/大橋)
IBF    :井上尚弥(日本/大橋)
WBO    :ゾラニ・テテ(南アフリカ共和国)
WBO 暫定 :ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)

 昨年10月に開幕した「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)」のシーズンⅡが大詰めを迎え、今回の井上尚弥(26=日本/大橋)対ノニト・ドネア(36=フィリピン)の決勝戦で一時的にクラス最強が決まることになる。また、WBC王者のノルディーヌ・ウバーリ(33=フランス)対暫定王者の井上拓真(23=日本/大橋)も同じイベント内で行われるため、この2試合でWBAとWBCの王座は一気に整理されるはずだ。
 WBO王者のゾラニ・テテ(31=南アフリカ共和国)はWBSSに参戦して準々決勝を勝ち抜いたものの、準決勝となるドネア戦直前に右肩を痛めたため離脱。そのため1年以上のブランクができた。この間にジョンリエル・カシメロ(30=フィリピン)が暫定王者になっている。両王者は11月30日(日本時間12月1日)にイギリスで団体内統一戦を行う予定だ。サウスポー対決は体格で勝るテテが有利と思われるが、耐久力に課題を抱えているだけに予断禁物の試合といえる。
 11月23日(日本時間24日)、ルイス・ネリ(24=メキシコ)対エマヌエル・ロドリゲス(27=プエルトリコ)という興味深いカードがアメリカのネバダ州ラスベガスで行われる。この試合はWBC挑戦者決定戦として挙行されるもので、勝者はウバーリ対井上拓真の勝者への最優先挑戦権を手にする。ドーピング違反や体重超過など素行に問題があるもののリング上では30戦全勝(24KO)のネリ、井上尚弥との統一戦では敗れたものの高い戦闘能力を持つ20戦19勝(12KO)1敗の前IBF王者ロドリゲス。予想が難しいカードだ。
 井上尚弥、井上拓真、ドネア、ウバーリ、テテ、カシメロ、ネリ、ロドリゲス――奇しくも11月にはバンタム級トップ戦線を彩る実力者8人が揃ってリングに上がることになる。これらのサバイバル戦を勝ち抜き、年末にはどんなメンバーがトップ戦線に名を連ねているのだろうか。

2度の五輪出場者 vs モンスターの弟
拓真のサウスポー対策がカギか

 WBCのバンタム級王座には長いこと山中慎介(帝拳)が君臨していたが、17年8月にルイス・ネリ(24=メキシコ)が戴冠。このときのドーピング違反は事実上の厳重注意で済んだが、18年3月の山中との再戦では計量で体重超過のため失格、ネリは戦う前に王座を失った。これを受けて昨年12月に先に暫定王座決定戦が行われ、井上拓真(23=日本/大橋)がベルトを獲得。その3週間後の今年1月、今度は正王座の決定戦が行われ、元WBAスーパー王者のラウシー・ウォーレン(32=アメリカ)に競り勝ったノルディーヌ・ウバーリ(33=フランス)が戴冠を果たした。こうしてWBC内で一時的に王座が分裂したが、今回、再び統一されることになった。
 ウバーリは08年北京五輪と12年ロンドン五輪に出場した元トップアマで、ロンドン大会ではフライ級ベスト8入りを果たしている。プロ転向は14年3月で、以後の5年半で16戦全勝(12KO)の戦績を残している。ウォーレン戦と初防衛戦(6回終了TKO勝ち)のアルツール・ビリャヌエバ(30=フィリピン)戦を含め直近の7戦は元またはのちの世界王者、あるいは世界挑戦経験者が相手だったが、全勝して6KOと勢いを増している。サウスポーの攻撃型で、相手にプレッシャーをかけながら左ストレートから右フック、距離が詰まると左アッパー、ボディブローと矢継ぎ早にパンチを打ち込んでくる。一発の破壊力や切れは感じられないが、テンポよく攻めるときのパンチの回転は速い。
 井上拓真は、「モンスター」井上尚弥の2歳下の弟として知られる。アマチュア時代には高校1年でインターハイ優勝のほか11年の世界ジュニア選手権に出場(ライト・フライ級2回戦敗退)した実績などがある。高校3年の13年12月にプロ転向を果たし、6年間に13戦全勝(3KO)をマークしている。KO率は23パーセントに留まっているが、これは対戦相手の質を考慮する必要があるだろう。のちの世界王者、世界挑戦経験者、のちに世界挑戦する選手や世界ランカーなど実力者との対戦が多いのだ。現在の暫定王座は昨年12月、ペッチ・CPフレッシュマート(タサーナ・サラパット 25=タイ)に勝って手に入れたもので、これが11ヵ月の試合となる。小気味よくパンチを繋いでいく右ボクサーファイター型で、12ラウンドを4度、10ラウンドを3度フルに戦いきるなどスタミナがある。
 井上にとっては戴冠試合に続くサウスポーとの対戦となるが、そのペッチ戦では受けにまわる時間が長かったという反省点が残った。被弾を最小限に抑えて巧みに迎え撃ってポイントを積み重ねたが、完勝という内容ではなかった。今回のウバーリも攻撃型だけに、この11ヵ月でどれだけサウスポー対応が身についたか試されることになりそうだ。ウバーリにペースとリズムを与えないためにも井上は序盤から先に仕掛けて出る必要があるだろう。

<資料3>TALE OF THE TAPE ウバーリ&井上拓真 データ比較表

  • 名前

    ウバーリ

    井上拓真

  • 生年月日/年齢

    1986年8月4日/33歳

    1995年12月26日/23歳

  • 出身地

    ランス(フランス)

    神奈川県座間市

  • アマチュア実績

    08年北京五輪Lフライ級出場
    12年ロンドン五輪フライ級8強

    11年世界ジュニア選手権出場

  • アマチュア戦績

    223戦207勝16敗

    57戦52勝(14KO)5敗

  • プロデビュー

    14年3月

    13年12月

  • 獲得王座

    WBCバンタム級

    WBCバンタム級暫定王座

  • プロ戦績

    16戦全勝(12KO)

    13戦全勝(3KO)

  • KO率

    75%

    23%

  • 世界戦の戦績

    2戦2勝(1KO)

    1戦1勝

  • 身長/リーチ

    163センチ/163センチ

    164センチ/163センチ

  • 戦闘タイプ

    左ボクサーファイター型

    右ボクサーファイター型

  • トレーナー

    アリ・ウバーリ(兄)

    井上真吾(父親)

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2009年4月以前に映倫審査を受けた作品で、R-15指定(15歳未満鑑賞不可)されたもの
R-15指定に相当する場面があると思われるもの
劇場公開時、R15+指定(15歳以上鑑賞可)されたもの
R15+指定に相当する場面があると思われるもの
1998年4月以前に映倫審査を受けた作品で、R指定(一般映画制限付き)とされたもの