“神は細部に宿る”シティにあったもの、PSGになかったもの【CLコラム】
表と裏、光と影。ハーフタイムの前と後で、2つのチームはまったく異なる表情を見せた。前半に魅力的なサッカーを展開したパリ・サンジェルマンは、後半はボロボロに引きずり回され、最初の45分間苦しんだマンチェスター・シティは、続く45分でボールも試合も完全に支配した。互いに長所と欠点を露呈したUEFAチャンピオンズリーグ準決勝1st Leg。迷い込んだ闇から最後まで抜け出せなかったPSGは、ホームゲームを1-2で落とした。
後半に一体なにが起こったのか。試合後のあらゆるインタビューは、こんな問いかけから始まった。あれほどコンパクトに、シンプルで無駄のないバス回しを実現させていたPSGが、なぜ突然、まったく機能しなくなったのか。答えの出ない問いや推測が、繰り返された。
PSGのキャプテン、マルキーニョスは、試合後のインタビューで「僕らはラインが下がりすぎた。シティが高い位置でアグレッシブに攻めてきたから」と分析している。まさしく後半のマンチェスター・シティは、ほぼ相手の陣地だけでボールを回すことに成功した。マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が「このレベルの試合では、自由な精神でプレーすることなんてありえない」と語ったように、選手たちにこれまで手厳しく教え込んできたことを思い出させたからだ。そう、それこそ、自らが長年追い求めてきたポゼッションサッカーである。
グアルディオラはハーフタイムのロッカールームで「ボールを持っていてもいなくても」攻撃性と集中力を保つよう選手たちに喚起した。スペースを潰し、リズムを落とすことを改めて徹底させたという。今季のプレミアリーグではナンバーワンの64%、チャンピオンズリーグも全試合通してバイエルンに次ぐ2位の59%という高いポゼッション率を誇るチームは、こうして本来の姿を取り戻した。前半こそPSGが豊富な運動量で「たったの」53%に食い止めたが、後半は英国のチームが61%もボールを専有した。「ボールの後ろをひたすら追いかけて、ようやく取り戻せても、前へ抜け出せなかった」と、マルキーニョスは振り返る。
交代の采配も違いを生んだ。前半にイエローカードを喰らい、なによりPSGのエンバペのスピードやディ・マリアのパス捌きに翻弄され続けたカンセロを、グアルディオラは後半の早い段階でベンチに下げた。代わりにジンチェンコを投入。そのわずか3分後の後半64分、マンチェスター・シティは1-1の同点弾を叩き込む。もはや流れは止められなくなった。
いや、むしろ、PSGのマウリシオ・ポチェッティーノ監督自身が流れをすぐに叩き切りに行かなかったのだ。同点後あきらかにプレーが荒くなり、しかも前半大いに仕事をしたからこそ、ディ・マリアやヴェッラッティは終盤に向けて運動量が減っていったし、4日前のリーグアン、対メス戦で大腿四頭筋を痛めたエンバペがおそらく脚に違和感を覚え始め……しかもそのエンバペが人生初めてチャンピオンズリーグ戦でシュート数0という苦しい時間を過ごしていたにも関わらず、選手交代に動いたのは80分。同点からの16分間、2点目で逆転を許してからの9分間、「ポチェッティーノはなにをぼんやりしていたんだ」とフランスのメディアもファンも怒りを隠せない。ようやく重い腰を上げたのは、ゲイェがレッドカード一発退場で10人の戦いに追い込まれてからだった。
「今試合について分析すべき点はそれほどない。選手たちの努力は素晴らしかった。ちょっとしたことが勝負を左右しただけ」とポチェッティーノは試合後の記者会見でうそぶき、部下のマルキーニョスは「馬鹿な2失点を喰らってしまった。ちょっとしたことこそが大切なんだ」と強調し、敵将グアルディオラは「これはチャンピオンズリーグ準決勝だよ。どんなちょっとしたことにもこだわらなきゃならない」と持論を説く。三者の使う「ちょっとしたこと」、つまり「detail」が、果たして同じ意味なのかどうかは分からない。
ただ「ほんの細部」ととらえたポチェッティーノがエスパニョールを、「細部にまでこだわる」グアルディオラがバルセロナを率いていた時代から通算して19回目の監督対決は、後者の11勝目で幕を閉じた。PSGとマンチェスター・シティにとっては2008年から数えて通算4度目の激突で、シティが2勝2分けと勝利数を伸ばした。
パリ側にとって頼みの綱は、今季アウェーで絶対的な強さを誇ること。チャンピオンズリーグはここまでのアウェー5戦中4戦で勝利を収めている。ベスト16 1st Legのバルセロナでも、準々決勝1st Legのミュンヘンでも、強敵を蹴散らした。6日後の2nd Legでは、果たして表が出るか、裏が出るか。パリ側はただ「信じるだけ」と口を揃える。
photo by Getty Images
text by 宮本あさか
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