技VS力、パス回しVSプレスのシンプルでわかり易い戦いで、勝負あり!【CLコラム】
「意外と簡単だったな」というのが感想だ。シュート数16対7、うち枠内7対1。リヴァプールの唯一の枠内シュートがアウェーゴールになり2nd Legに逆転の目も出て来たが、内容的にはもっと大差になってもおかしくなかった。
最初の10分間だけで「これは意外に大差になるかも」と感じた。結局この両者の戦いはリヴァプールのプレスVSレアル・マドリードのパス回しに集約されていたが、後者のトラップ、パス、ボールタッチの精度が前者の圧力をはるかに上回っていたからだ。
レアル・マドリードがワンタッチでポンポンと繋いでプレスをかわした時点で勝負あり。前にはリヴァプール守備陣の背後にある広大なスペースが広がっており、そこへクロースがロングパスを送り込み、俊足のヴィニシウスとアセンシオが走り込むだけでGKとの1対1に近いチャンスが何度も生まれた。反対に、レアル・マドリードのパスが自陣で引っ掛かっていればリヴァプールの決定機になっていただろう。勝負の分かれ目はこれ以上でもこれ以下でもなかった。
CB不在のダメージはリヴァプールが大
レアル・マドリードはセルヒオ・ラモス、ヴァラン、リヴァプールはファン・ダイク、ジョー・ゴメスと両チームともCBのレギュラーを欠いていたが、ダメージはリヴァプールの方が大きかった。前からプレスを掛けていくと当然後ろの方は1対1になる。リヴァプールがこのリスクを負えるのは、スピードと強さを兼ね備えたファン・ダイクとジョー・ゴメスの1対1に勝てる抜群の対人能力があるから。が、代役の2人にはそれはない。となると、ラインを上げ切れないしSBのどちらかがCBの近くでサポートしようとする。そうすると、必然的に前への推進力は弱くなる。
この、試合前にすでにあった構造的な弱さは、レアル・マドリードにパスを裏へ通されるようになるとさらに顕著になる。“前へ出ようか、いや下がろうか”という迷いが生じるからだ。
ユルゲン・クロップ監督のゲームプランは“前へ出よ!”だったはずだが、あまりに背後を突かれるので選手たち——特に危険を実感する最終ラインの4人とファビーニョ——はためらい、自重する。前はプレスに出るが、後ろは出ないとなると、チームは分断し中盤にスペースが生まれ、そのスペースを相手に使われてセカンドボールが拾えず、ボールを回されて波状攻撃を掛けられる。悪循環である。
「短い毛布の理論」で機能不全を解く
チームは“長さの足りない毛布”にたとえられる。肩まで掛けようとすると足が出る。足を包むと肩が出る。上半身も下半身も暖かい、というわけにはいかない。前へ出ると背後のケアが疎かになる。背後を守ろうとすると前へ出られない。これは純粋に毛布の長さの問題、つまり物理的な問題なのであり、良いとこ取りやリスクゼロは存在しない。
組織的、構造的な欠点は個の能力でカバーするしかないが、その個がリヴァプールには欠けていた。サッカーには論理では解明できないこともたくさんあるが、彼らが機能不全に陥った理由は明快である。
クロップが選んだ先発メンバーには驚きがあった。チアゴの不在は、彼の技よりもケイタの圧力の方が都合が良いと考えたからだろう。つまりプレスで圧倒するつもりだったが、これが読み間違いだったことは前半のうちに両者を入れ替えたことでわかる。フィルミーノではなくジョタを先発させたことは、詰まるところはここ4試合6得点のジョタで点を取りに行った、ということだろう。
ホーム&アウェーの鉄則はアウェーで点を取りに行くこと。ホームだから攻めないといけないリーグ戦とはそこが違う。圧倒されたリヴァプールに勝ち抜きの可能性が残ったのも、1点以上の価値があるアウェーゴールを決めたからだ。とはいえ、これも結果論にはなるが、前に残ることが多かったジョタのカゼミーロへのマークが甘かったことが、レアル・マドリードのボール出しを容易にしていた。
ジダンの65分間VSクロップの25分間
クロップがどんなサッカーをやりたかったか、を見るためには、後半開始から10分間と試合終了間際の15分間を見れば良い。
それ以外の65分間を見れば、ジネディーヌ・ジダン監督がどんなサッカーをやりたかったかがわかる。前からプレスへ行かず、つまり力VS力の勝負を挑まず、ある程度引いてプレスを受け、ボールをキープしてスピードダウンする。リヴァプールはカオスに強い。両チームのゴールに次々とチャンスとピンチが訪れる撃ち合いでは絶対の強さを発揮する。よって、そういうインターセプトとボールロストが連続するような展開を避けるため、ボールを横や後ろへ動かしてプレスをかわし、リズムを下げる。
劣勢と見られたレアル・マドリード——スペインのテレビ番組のアンケートでは58%がリヴァプール有利と予想——には、今季ベストのパフォーマンスを見せた者が多かった。
まずヴィニシウス。先制点の場面では、斜め前へ出て相手DFを無効化した胸トラップから課題があったフィニッシュまですべてが完璧だった。エデル・ミリトンも堅いブロック、しつこいマークでジョタ、マネ、ロバートソンが集まり「崩し」を担うリヴァプールの左サイドを完封し、サラーのいる右サイドが担う「フィニッシュ」を阻止した。ルカス・バスケス、モドリッチ、クロースはスペースと時間がない中でも難なくパスを繋げるほどの技術の高さを見せた。リヴァプールが捨て身でプレスに出てくれたせいで、普段のリーガ以上に際立って見えた。先週末のエイバル戦では上がっていたカゼミーロは昨晩は第3のCBに徹して、失点シーンの無謀なプレスの空振り以外は危なげなかった。
アセンシオの芸術と3点目のミスの連鎖
アセンシオは良くも悪くもアーティストぶりを披露した。2点目のシーンでのクリアミスをかっさらってGKの頭の上を越す美しいループと対照的な、63分と65分のシュートを撃たない判断ミス。並みの選手なら単純に撃つところをなまじ発想力とそれを実現する技術があるゆえに、一つ“遊び”を入れようとする。65分のプレーはルーレットで華麗にマークを外そうとしたのだと思う。普通は、つま先で迷わずシュートをするところだ。効率よりも美や遊びを優先するアーティスティックなところが甘さとなって、決定的な差を付けられなかった。
リヴァプールで力を出せた者は皆無だろう。特に、スローインからベンゼマ、モドリッチ、ヴィニシウスをフリーにしての3失点目は、セットプレー時で体制を整える時間があり8人で守っているのに3人に自由にやられるという、CLレベルではあり得ないミスの連鎖だった。
2nd Legに向けても見どころは同じ。技VS力、パス回しVSプレスでどっちが勝つか? 極めて対照的な両者による、原初的でシンプルな攻防——と言っても、もの凄くハイレベルなそれ——が見られるだろう。中途半端はない。今回はリヴァプールが拙く見え、レアル・マドリードが上手く見えたが、次回はまったく逆になることもあるとみる。
photo by Getty Images
text by 木村浩嗣
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