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町山智浩の映画塾!

町山さんプロフィール

テレビやラジオなど幅広く活躍する映画評論家。映画「キック・アス」の日本語字幕監修も務めた。著書に「映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで」「トラウマ映画館」などがある。

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セクハラ問題で揺れるハリウッド…
アカデミー賞への影響は?
町山智浩が徹底予想!

 1月23日にアカデミー賞各部門のノミネート作品が発表された。今年の最多ノミネーションは、13部門にノミネートされたギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』。続く8部門にノミネートされたクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』、7部門にノミネートされたフランシス・マクドーマンド主演の『スリー・ビルボード』などの作品評価も高く、オスカーの行方は混戦模様とも言われている。そこでアメリカ在住の映画評論家、町山智浩氏に今回のアカデミー賞を獲得する作品は何なのか。ズバリ予想してもらった。

 注目の受賞結果は、日本時間3月5日(月)午前8:30よりWOWOWプライムにて独占生中継される「第90回アカデミー賞授賞式」にて明らかになる。

【作品賞】

シェイプ・オブ・ウォーター

「シェイプ・オブ・ウォーター」
20世紀フォックス映画
3月1日全国ロードショー
©2017Twentieth Century Fox

 作品賞は、13部門にノミネートされている『シェイプ・オブ・ウォーター』が普通に考えて大本命ということになると思います。もしこの作品がとったら、アカデミー賞初となる“怪獣映画の受賞”という歴史的快挙になるので、僕は応援しています。この作品は怪獣映画であって、美女と野獣ものであって、ラブロマンスであって、ミュージカルであって、政治サスペンスであって……という、ありとあらゆる要素が入っている、ものすごくぜいたくで斬新で、チャレンジングな映画だと思います。

 対抗は、部門数でいえば『ダンケルク』でしょうが、これはイギリス軍がフランスから撤退した時の話なので、イギリス人にとっては重要な事件でも、アメリカ人にとってはあまり関係がない。そしてかつ俳優の演技を見せる映画ではなかったということもあり、そういった映画は、投票者の中に俳優が多いアカデミー賞においてはとりにくいかなと思っています。そういう意味で対抗は『スリー・ビルボード』だと思います。この作品は各映画賞で主演女優賞、助演男優賞をたくさん獲得しています。先ほども言いましたが、ハリウッドでは投票権を持っている俳優さんが多いため、演技合戦であるこの映画が票を集める可能性は非常に高いです。

 そして大穴はポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』です。これもとても面白い映画でしたが、それでも最終的には『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』の一騎打ちとなるでしょうね。

【主演男優賞】

ゲイリー・オールドマン

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」
3月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

 主演男優賞は、順当にいけば、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマンなんですね。彼は今回、まったく容貌が似ていないチャーチルになりきっています。彼の普段の体形とも違いますし、チャーチルのしゃべり方のクセもしっかり取り入れて、まったく別人になりきっています。アカデミー賞では、別人になりきることと、実在の人物になりきった場合に賞をとりやすいと言われているので、彼はその条件を完璧に満たしている。しかもこの映画が非常に特殊なのは、2時間以上ある上映時間のほとんどにチャーチルが出ているということ。

 いわゆるひとり舞台の映画なので、主演男優賞というものがこれほど似合う映画もないですね。ただひとつ問題があって。現在、ゲイリー・オールドマンは、過去に前の奥さんを殴って、警察に呼ばれたという過去の事件が掘り起こされていて。彼のようなDVをするような男に賞を与えてはいけない、という人たちが声をあげているんです。そうなると女性票も危ないですし、ハリウッドで続いているセクハラ問題の影響などもあり、もしかしたらゲイリー・オールドマンはアカデミー賞を落とすかも知れません。

 対抗は、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ君という、少年のような男の子ですね。彼はここで、年上の男と恋に落ちる17歳の男の子を演じているわけですが、とにかく彼は美形であるというだけではなく、フランス後はしゃべるわ、イタリア語はしゃべるわ、ピアノでバッハを弾いて、ギターも弾いてと、すごい才能を見せつけているんです。しかも全編、上半身裸で、男性とのラブシーンもかなり強烈なことをしています。ここまでやるかというくらいに頑張っていますんで、最年少アカデミー賞主演男優賞の価値がある演技だと思います。今回はこの2人以外に考えられないので、大穴はないでしょう。

【主演女優賞】

シアーシャ・ローナン

「レディ・バード」
2018年6月公開
配給:東宝東和
© Universal Pictures Merie Wallace, courtesy of A24

 本命は、かたっぱしから世界中の映画賞をとりまくってる『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドですね、彼女は、娘を殺された母親を演じているんですが、ずっと眉間にしわを寄せていて、とにかくすごいんですよ。自分に立ち向かってくるものは徹底的に暴力でたたきのめしていくという。女性版クリント・イーストウッド、としか言いようのない強烈な演技ですね。彼女が出てくるだけでも、西部劇のテーマのような音楽が鳴り響いてカッコいいですね、とにかく圧倒的な存在感なので、彼女以外には考えられないですね。

 対抗はまったく逆方向になりますが、『レディ・バード』のシアーシャ・ローナンだと思います。前作の『ブルックリン』では、少女から大人の女性になるという演技が素晴らしかったんですけど、今回はまた子どもに戻りまして。女子高生を演じています。しかもその女子高生は、自分のことを“レディ・バード”という芸名で呼んでくれと先生や親に言うんですけど、バカ言ってるんじゃないよと怒られる。非常に痛い、自意識過剰な、いわゆる中2病の勘違い女子高生を爆笑演技で表現しています。ここでは徹底的にコメディエンヌとしての才能を見せているんです。

 そして大穴というわけではないですが、その2人に迫っているのは『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンスです。この映画では口のきけない女性の役でしたが、これはパントマイムですよね。表情と身ぶり手ぶりだけで主役を演じきっていて見事です。本人は、チャップリンや、過去のパントマイムの演技を研究して、挑戦したということなので、彼女が三番手だと思います。

【助演男優賞】

サム・ロックウェル

「スリー・ビルボード」
20世紀フォックス映画
全国公開中
©2017Twentieth Century Fox

 助演男優賞は『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル以外には、考えられないです。今、アメリカでは白人警官による暴力が非常に問題となっていますが、彼が演じるのはそれを思い出させるような田舎の暴力警官なんです。映画の前半を観ている時は、観客はサム・ロックウェルを本当に憎むんですよ。でも後半になり、どんどん彼の内面が明らかになっていくと、本当にビックリさせられるんです。非常に複雑な、何層にも重なったような人間性の厚みを見せる演技で。サム・ロックウェル以外は、考えられません。

 強いて対抗を挙げるならばウィレム・デフォーでしょう。彼は『フロリダ・プロジェクト(原題)』という映画で、モーテルの管理人を演じています。「プロジェクト」というのは、アメリカでは貧困層向けの住宅という意味なんですが、この映画は、アパートに住むこともできずにモーテルに暮らしている、貧しい親子たちの話なんですね。そしてウィレム・デフォーは、般若のような顔をしている頑固ジジイに見えて、実は本当に心優しい管理人のおじいさんなんです。貧しい子どもをなんとか救ってあげようとするとするんですが、何もできない。そのジリジリする感じ、本当にこの人はいい人なんだなということが観客に伝わってきて。涙なくては観られない、素晴らしい演技を見せています。

【助演女優賞】

アリソン・ジャネイ

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」
© 2017 AI Film Entertainment LLC

 助演女優賞は母親対決になります。ひとりの母親は『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で、トーニャ・ハーディングのお母さんを演じたアリソン・ジャネイですね。この人は、テレビシリーズで有名なベテラン女優です。トーニャ・ハーディングという人は、ナンシー・ケリガンというフィギュアスケートのライバルを、殴打させたということで問題になった人物ですが、どうしてそんな暴力的な娘が育ってしまったのか。実は母親がとても暴力的な人物で、娘にフィギュア・スケートをさせるために、徹底的に虐待をしまくるんですよ。それをアリソン・ジャネイが悪魔のように演じていると。毒母演技では彼女が圧倒的ですね。

 それに対抗するのが、『レディ・バード』のローリー・メトカーフです。これがまた嫌な母親で、娘がこういう大学に行きたいの、と言うと、あんたなんか受かるわけない、あんたなんかいつか警察に捕まるわよとか、ヒドいことを言うんです。娘がプロムのダンスパーティーに出るためにドレスを着ても絶対に褒めない。普通だったら、娘がドレスを着たら、かわいいわねとか、きれいだねというのが母親なのに、彼女は絶対に娘を褒めません。本当に嫌な母親なんですが、実は……という。今回はそういう人間の厚さを感じさせる演技が多いですね。

【監督賞】

ダンケルク

「ダンケルク」
ブルーレイ&DVDセット(3枚組)¥3,990+税
デジタル配信中
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 本命は『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督です。個人的にもずっと応援している監督なので、彼にとらせてあげたいですね。彼は、ゴールデン・グローブ賞で監督賞をとった時に「怪獣たちに感謝します」と言ったんです。とにかく子どもの頃から怪獣ものが大好きで、ウルトラマンが好きで、ゴジラが好きで。フランケンシュタインとかドラキュラとか、そういったものが本当に大好きな人なんです。彼は子どもの頃から怪獣映画を作りたくて、作り続けてきた人です。怪獣映画というと、アカデミー賞には縁がないものだと思われていたわけですが、今回初めて芸術作品として評価を勝ち得ることになると思います。

 対抗は『ダンケルク』のクリストファー・ノーランです。かつて『マッドマックス 怒りのデス・ロード』がたくさんの技術部門賞にノミネートされたように、『ダンケルク』も技術的な賞をたくさん獲得したり、ノミネートされたりしているんです。そうなると、監督としてそれらをまとめ上げる技量が評価されます。そういう点で、クリストファー・ノーランが、圧倒的な作家性を発揮しているという評価を受けています。ただ、同じ意味で、ギレルモ・デル・トロの方も強烈な作家性を出していますんで、今回は『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロだろうと思いますけどね。

【日本人関連作品】


 『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』の辻一弘さんがメイク・ヘアスタイリング賞部門ノミネートされていますが、彼はこれまでも何回かノミネートされている方なんです。彼はハリウッドの特殊メイクのジャンルにおいては、本家本元の継承者なんですね。一番の大物は、ディック・スミスさんという神のような人がいまして。その人の下にリック・ベイカーさんという人がいて。そしてその下に辻さんがいる。だから三代目みたいな感じですね。

 今回はゲイリー・オールドマンを特殊メイクでチャーチルにしたんですが、この映画を観る人は、最初から最後までずっと辻さんの特殊メイクの技術を見続けることになる。とにかくクローズアップが多くて、皮膚の表面なども毛穴が見えるくらい。まったく作り物に見えないという脅威の技術です。ある意味、特殊メイクが主役の映画と言ってもいいのではないでしょうか、辻さんは確実にとるでしょうね。

【今回の授賞式に期待すること】

 これまで300近くノミネートされるなど、20年くらいにわたり、アカデミー賞を支配していたプロデューサーのハーベイ・ワインシュタインが(セクハラ問題の影響で)今回からいなくなります。そしてもうひとり、アカデミー賞の常連だったケヴィン・スペイシーも(同じくセクハラ問題の影響で)いないわけですね。そんなハリウッドの歴史においても重要な年に、このお祭り騒ぎであるアカデミー賞授賞式と、このヘビーな問題をどのように同居させるのかということに僕は興味があります。司会は前回と同じジミー・キンメル。彼は前回、封筒間違い事件があったんで二度と司会はやらないと言っていたんですが、このたび、また司会を務めることになりました。彼にとっては非常に重要な仕事を仰せつかったということだと思います。非常にヘビーな、政治的にも重いものがのしかかっているアカデミー賞授賞式をどのように軽く盛り上げるのか。その辺も見どころだと思っています。