[マッチデータ検証]レアル・マドリードを史上最多優勝に導いた、前後半の攻撃の狙いの違い。リヴァプールに足りなかった“最後の質”

いよいよ迎えた、欧州サッカー頂点を決める戦い。UEFAチャンピオンズリーグ決勝は、レアル・マドリードが史上最多記録を更新する14回目の優勝。リヴァプールの強力なスリートップ、両サイドバックのクロスをはねのけ、強固な守備を披露し、ヴィニシウスの挙げた1点を守り切った。MVPに選ばれたのはGKクルトワだったが、サッカーアナリストの杉崎健が試合を分析。レアル・マドリード前後半の攻撃の狙いから来るモドリッチの動き、リヴァプールのスリートップが結果を残せなかった理由などを、データと共に紐解いていく。

大舞台での勝負所を知っているレアル・マドリード

――クルトワの活躍が目立つ試合でしたが、総括で見るとどんな印象の試合でしたか?

戦前の予想として多くの人が思っていた通り、リヴァプールが攻めてレアル・マドリードが賢く守る展開になりましたね。強烈なスピードとテクニックを持つリヴァプールのスリートップに対して、4バックがどう対応したのかが、明暗別れるポイントになったと思います。

――後半はもう少し攻め合いになるかと思いました

レアル・マドリードがそれを選択したから、という感じですね。前半15分ぐらいまでゆっくりボールを回して、その後も相手ペースにあわせることなく、最後までディフェンス背後のスペースを空けずに戦っていた印象です。

――それでも、細かいところでは見どころの多い試合になりましたね

前半のレアル・マドリードは、基本的に自陣でパスをつなぎ、ビルドアップする。相手がボールを取りに出てきたら攻める、というのを何度かチャレンジしていました。クロースがパスを引き出したり、カゼミーロが逆に上がったり、少しずつ陣形やポジションを変えてチャンスを伺っていましたね。だから、前半はポゼッションとボール位置で見ても、レアル・マドリードの数字の方が高い。

<ポゼッションとアタックエリア前半>

ポゼッションとアタックエリア前半

<ポゼッションとアタックエリア後半>

ポゼッションとアタックエリア後半

後半は点を取って守りに入ったのもあり、前半に比べてリヴァプールのポゼッションが上がった。あと、試合を見て思ったのが、球際はほとんどレアル・マドリードが勝っていたこと。データを見ると、見事にデュエルの勝敗はレアル・マドリードが59%、空中戦も74%で勝っている。

<デュエル勝率>

デュエル勝率

地上・空中含めてレアル・マドリードは、この大舞台で絶対譲れない部分を分かっている感じがしました。

リヴァプールに足りなかった“最後の質”

――データから見ると両チームにはどんな特徴がありましたか

攻撃の左右バランスを見ると、レアル・マドリードはこれまでと同じで左が多い。リヴァプールは大体いつも半々くらいですが、左のルイス・ディアスから攻めるシーンは数えるくらいでしたね。右サイドのサラー、ヘンダーソン、アレクサンダー=アーノルドの3人でローテーションしながら崩そうとしていた前半でした。

<アタックエリア前半>

アタックエリア前半

<アタックエリア後半>

アタックエリア後半

でも、後半のレアル・マドリードは、フェデ・バルベルデがいる右サイドからの攻めが多くなる。これが、意外でした。

おそらく、ハーフタイムにビルドアップの方向性を変えたんじゃないかな。リヴァプールは守備の時、当然ヴィニシウスにボールが来ると思って、積極的に守備を仕掛けた。これがうまく行っていたけど、左のプレッシャーが緩いと気づいたレアル・マドリードが攻め方を変えた。この辺りが、全体的な試合の概要だと思います。

――リヴァプールの攻撃は、あまり守備で前に出て来ないレアル・マドリードから、どうやって点を獲るかが焦点でしたね

攻撃のキーマンはチアゴですが、彼が一番生きるのは中央やや左から前線へのパスや逆サイドへの展開。でも、この試合では後方でボールをピックアップすることが多かった。

<チアゴのヒートマップ>

チアゴのヒートマップ

中盤の底で、ファビーニョと一緒に全体をサポートする役割を担いましたね。その代わり、右サイドハーフのヘンダーソンは、右サイド高い位置まで攻め込んでいる。攻撃としては左ではなく、右から組み立てる狙いだったと思います。

<ヘンダーソンのヒートマップ>

ヘンダーソンのヒートマップ

――リヴァプールは両サイドからのクロスを突破口にしたかったはずです

クロスは、右のアレクサンダー=アーノルドが9本、左のロバートソンが5本あげていました。それで、アレクサンダー=アーノルドのクロスが20%しか通っていない。

<リヴァプールのクロス成功率>

リヴァプールのクロス成功率

リーグ戦では彼らがアシストを多く決めていますが、今回は2人のクロスがボックス内に届かなかった。それがリヴァプールに足りなかった“最後の質”と言えます。

前半1度もクリアがなかったレアル・マドリードのセンターバック2人

――レアル・マドリードのDFはしっかり相手をはね返していた印象ですね

これは前半のデータですが、レアル・マドリードのクリア数を見ると、センターバックのエデル・ミリトンとアラバはゼロです。クロスに対してはペナルティエリアに入る前に、マンディとカルバハルの両サイドバックが跳ね返したり、キーパーが触っていた。

レアル・マドリードのクリア数 前半

<レアル・マドリードのクリア数 前半>

レアル・マドリードのクリア数 後半

<レアル・マドリードのクリア数 後半>

レアル・マドリードはセンターバック含めてディフェンスラインが深く、シュートまで行かれても最後で潰す。そんな守り方でしたね

――本当にレアル・マドリードの守備は最後まで堅かったです

最後までセンターバック二人が、うまく調整していたと思います。実際にDFのタックル数など守備をまとめたデータを見ると、前半はかなり少ない。マネなどがボールを持っても、エデル・ミリトン(3)とアラバ(4)は基本的についていかなかった。

レアル・マドリード 自陣守備 前半

<レアル・マドリード 自陣守備 前半>

レアル・マドリード 自陣守備 後半

<レアル・マドリード 自陣守備 後半>

対して後半は、相手が攻め込んで来たのもあって、明らかに数字が増えた。前半で、クロスからサラーにヘディングシュートを打たれた時、2人で話し合っていたんですよね。そういったやりとりで、守備意識を変えて、ボックス内のアクションを明らかに増やした。その辺りも試合巧者で、試合展開や状況にあわせて守り方を変えていましたね。

――それに対してリヴァプールも、工夫しながら攻め続けました

中盤のファビーニョが、誰にパスを出したのかデータを見ると、前半で一番多く出したのが最も近いチアゴで12本。次はヘンダーソンの10本。その次がアレクサンダー=アーノルドの9本と、右サイドが多かった。左のロバートソンへのパスは、たった1本です。

<パスマトリクス ファビーニョ前半>

パスマトリクス ファビーニョ前半

これが後半になると、左右均等になる。後半、ファビーニョからのパスは、右のヘンダーソンへのパスが2本に減少、左のロバートソンが4本に増えた。つまり、左サイドへの攻撃の意識が高くなった。

<パスマトリクス ファビーニョ後半>

パスマトリクス ファビーニョ後半

後半のアレクサンダー=アーノルドへのパスは、9本から1本に減っています。ファビーニョという舵取り役が、うまく相手MFカゼミーロの守備を避けながらプレーしていましたね。ただ、崩し切れなかったですね。

リヴァプールのスリートップが無得点に終わった要因

――リヴァプールのスリートップもシュートは打ちましたが、点につながらなかった。その辺りの分析はいかがですか

リヴァプールのスリートップの内容ですが、彼らは速さもあるしテクニックもあるし、3人目の動きもできる。リーグ戦では両サイド奥まで攻め込み、マイナスや斜めのクロスで、相手DFを崩す場面が多くありました。でも、3人の前半のタッチマップを見ると、ほとんど右サイドの深いところまで行けていない。

<タッチマップ リヴァプールのスリートップ前半>

タッチマップ リヴァプールのスリートップ前半

開始14分ぐらいまで、ヘンダーソンとアレクサンダー=アーノルドが右サイドの外から攻撃を作ろうとしていたんです。でも、それがうまくいかないから、ちょうど15分ぐらいに、サラーがスッと中央に入って、その変化から立て続けに3本ぐらいチャンスが生まれた。一番最初の決定機もサラーでした。それ以降、中へ入るプレーが増えて、余計に両サイドの奥への攻撃がなくなった。そのまま後半も、左サイド奥までは攻め込めなかった。

<タッチマップ リヴァプールのスリートップ後半>

タッチマップ リヴァプールのスリートップ後半

結局、レアル・マドリード守備陣が深く守って、両サイド奥の1番怖いところを止めた。後は中央でブロックすればいい、という形がずっと続いた。これが、リヴァプールのシュート数24本で無得点という結果に現れましたね。

リヴァプールのシュートがブロックされた数は9本。裏をとらせず自分たちの前で必ずブロックするレアル・マドリード守備を、最後まで攻略できなかった。それがリヴァプールのスリートップが結果を残せなかった理由だと思います。

――レアル・マドリードのディフェンスラインは確かに終始、守備もビルドアップも冷静でした

普通はこういう展開だと、守る側が大きくボールを蹴ったりして、パス精度が下がる。この試合も、攻めるリヴァプールが概ね85%から90%位のパス成功率でした。でも、守っているレアル・マドリードのパス成功率も同じぐらい。85%とか90%の成功率を残している。

<パス成功率 リヴァプール>

パス成功率 リヴァプール

<パス成功率 レアル・マドリード>

パス成功率 レアル・マドリード

ただクリアせずに、繋ぐ時はちゃんと繋ぐ。それができていたから、試合としても相当なハイレベルな戦いになったと言えますね。CL決勝なので当然ですが。

――レアル・マドリード守備陣がしっかり前向きにブロックしたからこそ、GKクルトワもセーブしやすかった

クルトワは枠内シュート全部止めました。この枠内シュートセーブ数9本はCL史上最多ですからね。

<セーブ数 クルトワ>

セーブ数 クルトワ

言うまでもないですが、世界最高のゴールキーパーです。

前後半で狙いを変えて成功につながったレアル・マドリードの攻撃

――結果を残したレアル・マドリード攻撃陣の良かったところはどこですか

勝敗を分けた1点を、少し深堀しましょう。

リヴァプールの守備は前にどんどん出てきて、ボールが取れたらショートカウンター。右サイドでより高い位置からプレッシャーをかける。それがある程度、前半はうまくいっていた。敵陣での守備、タックル・リカバー数を見ても、右側からプレッシャーをかけて、ある程度成功していたのがわかります。

これが後半になると、全然高い位置でボールが取れていない。右からのプレッシャーもかからなくなった。それが、歯車が狂ったひとつの理由だと思います。

リヴァプールの守備 前半

<リヴァプールの守備 前半>

リヴァプールの守備 後半

<リヴァプールの守備 後半>

これはハーフタイムを受けてレアル・マドリード攻撃陣が、左サイドよりも右中心の攻めに切り替えたから。モドリッチも後ろでボールをもらうより前に入るようになった。その流れで相手マークをうまく剥がしたのが、この試合、唯一の得点シーンでしたね。

レアル・マドリードの得点がどこから始まったかというと、スローインなんです。マンディのスローインから始まって、リヴァプールはヘンダーソンが前に出て右サイドで奪いたかった。でも交わされてサイドが変わり、カルバハルにパスが出たところでチアゴが出る。

ここで、前半のモドリッチだと後ろに下がってパスをもらうんですけど、「右サイドなら攻められる」と考えて前へ向かう。そこからフェデ・バルベルデにパスがつながり、マークがずれた結果、ファン・ダイクが釣りだされた。中央のベンゼマもケアする中で、フェデ・バルベルデのシュート性のクロスが、ヴィニシウスに通ってゴールになった。そんな得点だったと思います。

――ディフェンスと中盤のパスのつなぎも90分通してレアル・マドリードは安定していた印象です

レアル・マドリードの両サイドバックは、ロングパスではなくてしっかりパスを使うことをチャレンジしていた。カルバハルとマンディは基本的にショートパスで、ちゃんとボールをつなぐミッションがありましたね。ロングパスを出したパーセンテージも少なかった。

<レアル・マドリードの両サイドバックのパス>

レアル・マドリードの両サイドバックのパス

――だからあまり、レアル・マドリードはボールを失わず、うまく中盤にパスを繋げた

モドリッチのタッチマップを見ると、前半は中央のやや後ろ寄りです。右サイドの後でもよくボールを受けている。それが後半に入ると、やはり右サイド前でのボールタッチが増えた。その辺りにレアル・マドリードの攻撃の変化が見て取れますね。

<タッチマップ モドリッチ前半>

タッチマップ モドリッチ前半

<タッチマップ モドリッチ後半>

タッチマップ モドリッチ後半

――逆にレアル・マドリードは、FWにあまりパスがつながらなかった印象があります

レアル・マドリードのスリートップの動きを見ると、シュート数は4本ですが、自分の役割をこなしていた印象です。

右のフェデ・バルベルデはボールをピックアップするため後ろにいたり、中に入るよりは外にいたり、あまり数は多くなかったですがディフェンスラインのカバーも行って、この大一番での起用にこたえていた。

<ヒートマップ フェデ・バルベルデ>

ヒートマップ フェデ・バルベルデ

ヴィニシウスはドリブルを8回試みて1回しか成功せず、なかなか自分では打開できませでした。止められた時にどうやって突破する力をつけるか、来シーズン以降の彼の課題ですね。ただ、それがあったからこそ、チームとして右から攻めようという考え方になり、最終的に結果につながったのは確かです。

<ドリブル突破回数と成功数(緑) ヴィニシウス>

ドリブル突破回数と成功数(緑) ヴィニシウス

王様ベンゼマは言うことがない感じですが、基本的にはこの試合でもやや左側にいて、ヴィニシウスを助ける位置にいた。この試合で輝いたとは思わないですが、大会を通してみると彼の活躍がチームにとって最重要ポイントだったと思います。

<ヒートマップ ベンゼマ>

ヒートマップ ベンゼマ

――優勝の鍵になったプレイヤーは誰だと思いますか

もちろんクルトワが最初に来ますが、試合のつなぎの意味ではモドリッチかなと思いますね。得点シーンの縦パスもモドリッチだし、チアゴとの駆け引きにおいても周りをコントロールするなど、タスクの重要性はモドリッチが高かった。

フェデ・バルベルデも、今大会は右ウィングで出たり、サイドハーフを務めたり、5バックの枠の1つを埋めて失敗することもあった。その中で評価を得て、起用されながら今大会で一番成長した選手かなと思いますね。

攻守切り替えの「スピーディー」さなど、現代サッカーのトレンドが見えるCL

――今季のCLはレアル・マドリードの優勝で終わりました。現代サッカーのトレンドはどんなところに感じましたか?

いろいろなテーマを挙げて、5つあります。

まずは、「スピーディー」さ。攻守の切り替えもそうですが、リヴァプールだと守備のプレッシング、マンチェスター・シティなら攻めるスピードなど、どんな局面においてもスピーディーさは必要だと感じましたね。戦術面では、やっぱり「変化」。システムだけではなくて、個々の選手の内容含めて、試合中に変化させるのは流行りだと思います。

後は、主に監督のテーマとして「マネジメント力」。今季CLもベスト8以降は監督の采配によってかなり勝敗が分かれました。後は「ディテール」ですね。レアル・マドリード対マンチェスター・シティ戦でも触れましたが、当然このレベルになると、ほんのワンプレーやひとつの判断で勝敗が分かれる。昔からそうですが、それがより最近、顕著だと思います。最後は「対策の対策」ですね。試合中に相手が変化してきて、自分たちも変化する中で、準備してきた対策を試合中により進化させる必要が出てきている。臨機応変さが求められていると思います。

その辺りの「スピード」「変化」「マネジメント」「ディテール」「対策の対策」を揃えられるチームが、大会で勝ち抜くのかなと思っています。

――今シーズン欧州サッカーもフィナーレを迎えました。来季もCLにEL、リーガ、W杯などありますが、最後に期待することを聞かせてください。

いつもは夏にW杯がありますが、今年は11月に行われます。シーズンの間に国際大会が入るので、より選手のマネジメントが重要になるでしょう。CLで言うと去年はチェルシー、今年はレアル・マドリードが優勝して、守備が強くてカウンターから前線の強い選手を使って勝ち抜くサッカーが結果を出している。去年・今年のベスト8あたりで敗れたチームには、またリベンジを期待したいですし、敵陣での攻撃をどう構築するか、サイド深くまで侵入するにはどうするか、手前からの崩しも大事だと思います。

ミランやバイエルン・ミュンヘンなど欧州5大リーグ優勝チームは、基本的に攻撃的なチーム。リーガ・エスパニョーラを見ても、レアル・マドリードはリーグでは圧倒的に攻撃していて、守備も両方できるからこそ優勝した。今後はハーフコートで相手を釘付けにするほど攻撃しっぱなしのチームが出てくるとか、より特徴的なチーム、より攻撃的な試合や展開が見れたら面白いですね。いずれにしても、レベルの高い試合が多くて楽しみです。

――攻撃的なゲームになったときの面白さや、守りの組織作りなど、多くのゲームがハイレベルで見応え満点ですよね。今シーズンは最後までありがとうございました。

今シーズンのUEFAチャンピオンズリーグを再度振り返る!