


グランドスラム通算15勝目、ウィンブルドンでは2年ぶり6度目の優勝。ロジャー・フェデラー(スイス)が大記録を達成して、09年ウィンブルドンは閉幕した。決勝は、好敵手アンディ・ロディック(アメリカ)と歴史に残る名勝負を演じた。十分すぎるほどの余韻の残る、素晴らしいエンディングだった。
男子シングルス決勝を好試合にした第一の功労者はロディックだ。試合を見た人はみな「勝たせてあげたかった」と感想を漏らした。それくらいロディックの集中力が素晴らしかった。名コーチとして知られるラリー・ステファンキの後押しを受け、バックハンドを改良し、対フェデラー用に練り上げた戦術を貫いた。フェデラーとの過去の対戦成績2勝18敗という数字が何かの間違いではないかと思うくらいの大接戦、大善戦だった。
ロディックのサーブは、エースこそ27本だったが、コースの打ち分けが抜群だった。センターを中心に、ときおりワイドに散らしたファーストサーブ、フェデラーの身の正面をついて窮屈なリターンを強いたセカンドサーブが圧巻だった。「最後までブレークできなくてイライラしたよ」と振り返ったフェデラー。しかし、精神的な葛藤を押し殺し、我慢のプレーに徹したところが、さすがは芝の王者だった。
耐えに耐えて、最後の最後、通算77ゲーム目に初めてロディックのサーブをブレークしたフェデラーは、勝利の瞬間、雄叫びを挙げ、高くジャンプした。「まったく試合を支配できなかった分、今回の優勝は満足感が大きいね」。日が傾き、影の面積が広がり始めたセンターコートで、王者が見せた歓喜のジャンプだった。
この優勝で、フェデラーの四大大会優勝回数は歴代単独最多の15となり、大会前まで並んでいたピート・サンプラス(米国)を抜き去った。ロディックは観客席で見守ったサンプラスに「ピート、記録を阻止しようとしたけど、ダメだったよ」と呼びかけた。そのサンプラスは、フェデラーに「史上最強の選手だ」と最大級の賛辞を贈った。
大会閉幕の翌日発表された世界ランキングで、フェデラーは約11カ月ぶりに1位に返り咲いた。ラファエル・ナダル(スペイン)のひざの故障による失速という事情もあったが、フェデラーが意地で王座を奪回したと言っていい。これで男子テニスはもうしばらく2強時代が続くことになる。
8月末に開幕する全米オープンには、ナダルも間に合うだろう。また、ウィンブルドンでは英国選手としては73年ぶりの優勝を期待されながら、準決勝でロディックに敗れたアンディ・マレー(イギリス)も雪辱を期しているはずだ。さらに、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、フアン マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)も巻き返しを図るだろう。そして、地元の全米だけに、観客の熱烈な声援を受けて、ロディックが燃えるに違いない。王者フェデラーに6連覇のかかる全米だが、優勝争いはウィンブルドン以上に熾烈を極めるはずだ。
女子は、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が姉ビーナス・ウイリアムズ(同)の3連覇を阻み、6年ぶり3度目の優勝を飾った。スピードとパワーは、もともと超一流。今大会は、体の切れが戻り、ここ一番での集中力の高さ、メンタル面の強さも見せつけた。02〜03年にかけて四大大会4連勝を飾り、年「セレナスラム」と呼ばれた頃の力強さ、堅実さが戻ってきたと言っていいだろう。
昨年の全米以降、全仏をのぞく3つのグランドスラムを制したものの、ランキングこそ2位にとどまっているセレナ。だが、大舞台での強さと実績を見れば、彼女こそ“女王”と呼ぶにふさわしい存在だ。女子テニスは柱となる選手が不在といわれていたが、セレナが再び全盛期を迎えたことで、立派な軸ができた。
全米でも、当然、彼女が優勝争いの本命だろう。それを追うのが姉のビーナス、世界ランキング1位のディナラ・サフィーナ(ロシア)か。若手では、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ、19歳)とサビーネ・リシツキ(ドイツ、19歳)に期待したい。ウィンブルドンではともにベスト8。なかでも、ノーシードで大会に臨んだリシツキは、準々決勝でサフィーナから第1セットを奪い、番狂わせの期待を持たせた。ウイリアムズ姉妹という壁は高いが、彼女たちが食い下がれば、女子ツアーはさらにおもしろくなるはずだ。
日本勢は、杉山愛の3回戦進出が光る。今季前半戦は不振を極めた杉山だったが、これで復調と見ていい。復調といえば、中村藍子の予選突破(本戦は1回戦敗退)と、ひざの故障が回復した森上亜希子の復帰もうれしいニュースだった。森田あゆみは1回戦で敗れ、四大大会初勝利を逃したが、テニスのスケール自体は成長しているので、大舞台での初白星は時間の問題だろう。