


2006年最後のグランドスラム全米オープンテニス。雨による影響で開幕遅延に始まり、全試合順延となった第2日・第6日と、選手たちにとっては体力面・精神面で、例年以上にコンディションの維持が難しい過酷な大会になった。日曜日・月曜日の早朝の生中継でお楽しみいただいたとおり、男子シングルスでは帝王ロジャー・フェデラーが全米3連覇を達成、女子シングルスではマリア・シャラポワが全米初優勝を飾った。
大会前半のハイライトは、今全米限りでラケットを置くことを表明していた36歳のアンドレ・アガシ。3時間31分、3度のタイブレークを潜り抜けたパベルとの1回戦、3時間48分、フルセットの末ものにしたバグダティスとの2回戦、そしてラストマッチとなってしまった3時間3分、もう一人のベッカーに敗れた3回戦。ラストマッチを終えたアーサー・アッシュ・スタジアムは、歓喜と涙に染まった。背中に痛み止めを打ちながらの渾身のプレーで、後進に、そしてファンの目に、そのすべてを焼き付けるかのように戦ったアガシ。生涯グランドスラムを達成した生きる伝説の、その21年間のキャリアは、幕を閉じたのであった。
こうしてカリスマを失ったアメリカテニス界だが、今全米では明るい未来の訪れも感じることができた。27歳のジェームズ・ブレイクは昨全米から2年連続ベスト8入り。昨全米の1回戦敗退以来、長くスランプに苦しんできた24歳のアンディ・ロディックは完全復活を思わせる決勝進出。ともに帝王の前に、辛酸を舐める結果に終わったが、今後の活躍が期待される戦いぶりだった。そして帝王を脅かす存在と言えば世界2位のラファエル・ナダル(スペイン)。クレーコート以外でのプレーに成長ぶりを発揮し、決勝での王者対決に期待が高まったが、準々決勝で思わぬ伏兵ユーズニーに苦しみ、今季3度目のフェデラーとの頂上決戦はならなかった。
一方、女子シングルスでは、美しく鍛え上げられた肢体を黒いウェアで包み、人生2度目の四大大会タイトルをつかみ取ったシャラポワだ。天敵セレナ・ウイリアムズを蹴散らした世界1位アメリー・モレスモーの、さらに大きくなりつつあった自信を準決勝フルセットで即座に摘み取り、準々決勝でリンゼイ・ダベンポートに「別次元のプレー」と称賛されたジュスティーヌ・エナン アルデンヌを決勝でパワフルにねじ伏せたプレイぶりは圧巻の一言。
その19歳女王に負けじと、若き才能を思う存分開花させたのが21歳エレナ・ヤンコビッチとローライズウェアで知られる18歳タチアナ・ゴロビン。凄まじいフットワークでボールを逃さない前者は、ニコール・バイディソバ、スベトラーナ・クズネツォワ、エレナ・デメンティエワというトップ10選手3人を立て続けに倒して四大大会初のベスト4入り。
15歳で初出場した全豪でいきなり4回戦進出して以降、ケガで伸び悩んでいたと思われる後者は、明るい未来を思わせる準々決勝進出だ。
そしてもう一人の伝説も、今全米を期にそのキャリアの幕を閉じた。1ヵ月後に50歳の誕生日を迎えるマルチナ・ナブラチロワは、通産18個目の四大大会タイトル、ミックスダブルスタイトル獲得で現役を完全に退く。テニス界の一時代が完全に終焉したことを思わせる。
日本勢の最高成績は、四大大会50回連続出場の大ベテラン杉山愛の3回戦進出。今大会を最後に引退を決意していた浅越しのぶは、シングル1回戦、ダブルス3回戦でコートを去った。また男子車椅子ダブルスの国枝慎吾が、準優勝に輝いている。
数々の興奮と感動を巻き起こした2006年全米オープンテニス。厳しい状況の中で戦い抜いてきた選手たちは、シーズン終盤のマスターズシリーズ、そして次なる大舞台、来季全豪オープンテニスへと向かう。新たな時代を切り開かんとする選手、着実に力をつけて天下を目指す選手、そして黄金時代を築かんとさらに凄みを増す王者。それぞれの思いを乗せて、シーズンは深まっていく。