【全豪オープン総括】今季を占う全豪オープン 果たして半年後の結果とは……
2011/02/07
■新たな時代の到来を予感
ある意味、らしくない全豪オープンだった。猛暑ルールが適用されたのは最終日だけで、それまでは日中でも気温20度半ばという日がほとんど。気温が低いとボールが多少遅くなると言われるが、サーフェススピードによる有利不利説など重要なファクターではないと証明した例はいくつもあり、最も知るところではラファエル・ナダルのウィンブルドン制覇がそうだろう。不利も苦手も克服する強い意志を持った、強い者が勝つ……最終戦まで長いシーズンを戦うトッププレーヤーたちにとって調整が難しいと言われる全豪オープンで、ロジャー・フェデラー、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マレー、誰もが認める優勝候補が次々と4強進出を決めていった。
ナダルのグランドスラム4大会連続優勝はなるか、あるいはそれを阻止するのは誰か……今大会最大の見どころに向かって完璧なシナリオが作られていたところで、肝心のナダルが敗れた。勝ったダビド・フェレールのプレーはすばらしかったが、ナダルを止めたのは“ケガ”だったと言うのが妥当だろう。試合開始直後に左脚の付け根を負傷。あれは単に不運のアクシデントだったのか。今大会、ナダルの体調は万全ではなかった。前哨戦のドーハで発熱を起こし、全快しないまま前半戦を戦っていた。2週目に入って快方に向かってはいたが、人一倍緻密な調整で試合に備えるナダルにとって、長引いた体調不良によるほころびが出た可能性は否めない。
ナダルの失敗に対し、大成功例を示したのがジョコビッチだ。デビスカップ決勝まで戦った彼の昨シーズンは誰よりも長かったが、それをハンデとするどころか、とてつもないプレッシャーの中で初優勝を勝ち取ったデビスカップでの経験を新たな強さに変え、フィジカルもメンタルも昨年終盤からの充実した状態を維持してきた。準決勝でフェデラーをねじ伏せたスピードとパワーを目の当たりにし、ナダルもフェデラーもいない決勝のコートを見つめながら、新たな時代の到来を予感した人もいただろう。けれどジョコビッチは謙虚だった。「ナダルとフェデラーが間違いなく今も最強の2人だよ。僕やマレーの実績など彼らとは比べようもない。ただ、グランドスラムの終盤に新しい顔が出てきたっていうのはいいことだと思うんだ」
新鮮な顔ぶれといえば、4回戦で第4シードのロビン・ソダーリングを破ってノーシードながらベスト8入りを果たした22歳アレクサンドル・ドルゴポロフ、予選から4回戦まで勝ち進んだ20歳のビッグサーバー、マーロス・ラオニックら次世代も頭角を現した。もちろん錦織圭を忘れてはならず、今回は3回戦止まりだったものの、躍動的なプレーに安定感もプラスしてこの年代のホープとしての存在感を示した。同じく3回戦敗退もナダルと一戦交えた18歳のバーナード・トミックも、地元のニューヒーローとして大会前半を盛り上げた。今年抜け出すのは誰か、逸材揃いのナダル世代にどこまで迫れるか、ここに錦織がいるだけに、その視点からの楽しみは倍増する。
■波乱続出も意外性のない結末
女子は中盤に波乱が相次いだ。第4シードのビーナス・ウイリアムズがケガで3回戦を途中棄権、第5シードで地元期待のサマンサ・ストーサーも3回戦で20歳のペトラ・クビトバに足をすくわれた。1回戦敗退のアナ・イバノビッチのほか第7シードのエレナ・ヤンコビッチ、マリア・シャラポワ、ジュスティーヌ・エナンら女王経験者たちも準々決勝にたどり着けず。その陰で笑った者たち……たとえばビーナスの棄権で4回戦に進んだアンドレア・ペトコビッチは続いてシャラポワも倒し、イバノビッチを破ったエカテリーナ・マカロワはそのまま4回戦まで突き進んだ。こう見ると、初戦負けとベスト8あたりはまさに紙一重。クルム伊達公子の前に息も絶え絶えだった第12シードの21歳アグネツカ・ラドバンスカが、ベスト8まで勝ち進んでいることもいい例だろう。過去グランドスラム10大会で9大会が1回戦負けの森田あゆみも、吹っ切れたように3回戦まで勝ち進み、その勢いとドロー運で今回はベスト8まで十分見通せるチャンスだった。
波乱は多かったが、やはりベスト4に来るのは選ばれし者たち。カロライン・ウォズニアッキ、ベラ・ズボナレワ、キム・クライシュテルスのトップ3に、中国のリー・ナを加えた順当な顔ぶれが集った。27歳クライシュテルスと28歳のリーが決勝に駒を進め、25歳以上同士のグランドスラム決勝はこれで連続5大会。女子テニスにもパワーは大前提であり、そこにテクニックや経験値が加わった円熟味あふれる強さが、今のところ若さの持つ武器をしのいでいる。
クライシュテルスの優勝という結末は最も意外性のないものだったが、リーのアジア選手として初のグランドスラム決勝進出というインパクトは大きく、アジアテニスのイメージを変えたそのパワフルなプレーの残像は色濃い。
今季を占うグランドスラムとも言われる全豪オープンだが、1年前に優勝したセレナも準優勝したジュスティーヌ・エナンも、7月以降ケガで戦列を離れた。さらにエナンは今大会中にあっけなく2度目の引退を発表し、セレナのほうはまだ復帰の目処を発表しない。もう一度男子のほうに目を移せば、去年のチャンピオン、フェデラーはその後8月までシーズン2つ目のタイトルを手にすることなく苦しみ、準々決勝で途中棄権したナダルは“本人史上最高”のシーズンを送った。今年も何が起こるかわからない。「世代交代」をすぐ口にする人たちに、フェデラーはややうんざり顔で言い返したものだ。
「半年後に話そうじゃないか」
そう、シーズンはまだ始まったばかりである。
プロフィール

- 山口 奈緒美[やまぐち なおみ] フリーライター
- 1969年生まれ。和歌山県出身。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経て97年よりフリーに。02年よりスポーツニッポン新聞社通信員。テニス専門誌やスポーツ情報誌、テニス関連サイトで大会レポートやコラムなどを定期的に執筆。99年以降グランドスラム大会はすべて現地で取材し続けている。








