KO決着必至のファイター対決
「ボンバー・レフト」は炸裂するか
前WBC世界スーパー・フェザー級王者で現1位の三浦隆司(32=帝拳)が35戦30勝(23KO)3敗2分、2度の世界挑戦経験を持つ2位のミゲール・ローマン(31=メキシコ)が67戦56勝(43KO)11敗。66パーセント(三浦)と64パーセント(ローマン)のKO率を誇る好戦派の強打者対決だけに、KO決着は間違いなさそうだ。
三浦は13年4月にガマリエル・ディアスを9回TKOで下して世界王座を獲得し、セルヒオ・トンプソン、ダンテ・ハルドン、エドガル・プエルタとメキシコ選手に世界戦で4連勝をマーク。しかもトンプソン戦以外は規定ラウンド内で仕事を片づけるなど圧倒的な強さをみせつけ、一時はメキシカン・キラーと呼ばれたほどだ。しかし、15年11月のフランシスコ・バルガス(メキシコ)戦ではダウン応酬の激闘のすえ9回TKOで敗れ、2年7ヵ月間に4度防衛した王座を失った。昨年5月の再起戦では左ストレート一発で1回KO勝ち、健在ぶりをアピールしている。本来ならば三浦は昨年12月に元2階級制覇王者のオルランド・サリド(メキシコ)と暫定王座決定戦を行うはずだったが、相手が腰を痛めたためキャンセル。その代わりに今回の挑戦者決定戦が決まった経緯がある。
「ボンバー・レフト」のニックネームが定着しているように三浦の最大の決め手はサウスポーから繰り出す左ストレートだが、右フックにも同等の破壊力がある。この左右を主武器にして世界を舞台に何度も痛烈なダウンを奪い、そして戦慄的なKOを生み出してきたものだ。特筆すべきは内山高志(ワタナベ)への挑戦試合(8回終了TKO負け)とバルガス戦を含めた世界戦7試合すべてでダウンを奪っている点であろう。奪ったダウンの合計数は12。その一方、トンプソン戦とバルガス戦では自らもダウンを喫している。こうしたデータからも三浦がリスクを恐れずに立ち向かう勇敢なファイターであることが分かるだろう。
対するローマンも歴戦の雄だ。プロデビューは三浦よりも4ヵ月早い03年3月だが、この14年間に三浦の2倍近い67試合をこなしている。KO数と同様、敗北の数の多さも目につくが、これは対戦相手の質を考慮する必要があるだろう。ローマンに勝った相手のリストには、世界挑戦のために来日経験もあるヘナロ・ガルシア(メキシコ)、のちのWBA暫定世界スーパー・フェザー級王者、ホルヘ・ソリス(メキシコ)、のちに世界2階級制覇を成し遂げるハビエル・フォルトゥナ(ドミニカ共和国)、三浦に挑戦するハルドン、さらに当時のWBA世界フェザー級王者、ジョナタン・バーロス(アルゼンチン)、やはり当時のWBC世界ライト級王者、アントニオ・デマルコ(メキシコ)ら錚々たる名前が並ぶ。そのなかでKO負けはデマルコ戦の一度だけというから、ローマンが相当のタフガイであることが分かる。
身長165センチのローマンは左右フックを振りながら前進するファイターで、距離が詰まってから繰り出すメキシコ人選手特有のアッパー気味のパンチもある。全体的なスピード感はないが、一発一発のパンチは重そうだ。浮き沈みの激しいキャリアだが、13年以降は18連勝(15KO)と勢いに乗っている。加えてメキシコ以外ではアメリカで12戦しているほかスペイン、アルゼンチンでも戦った経験がある。
ともに攻撃型だが、サウスポーのアドバンテージに加えパンチ力でも三浦の左ストレート、右フックが勝りそうだ。これらが炸裂すればタフなローマンも立っていられないだろう。三浦が気をつけなければいけないのは、ローマンの圧力に押されて下がらないことだ。相手ペースのなかで後退すると必然的に距離が詰まり、サウスポーの優位性が失われたうえローマンが得意とする連打にさらされる危険性がある。
三浦もある程度の被弾を覚悟しなければならないカードだが、バルガス戦のように序盤でつまづかなければ徐々にペースを引き寄せることができるのではないだろうか。中盤あたりで「ボンバー・レフト」が気を噴きそうだ。
Written by ボクシングライター原功
激闘王バルガス vs 25歳のWBO暫定王者
オッズは3対2でWBC王者有利
15年11月に三浦隆司(32=帝拳)に9回TKO勝ちを収めて王座を獲得したフランシスコ・バルガス(32=メキシコ)の2度目の防衛戦。挑戦者のミゲール・ベルチェルト(25=メキシコ)はWBOの暫定王者で31戦30勝(27KO)1敗の戦績を誇る強打者で、目下9連続KO勝ちと勢いがある。激しい打撃戦が予想される。
バルガスはアマチュア時代に07年&09年世界選手権、08年北京五輪に出場した実績を持っているが、戦闘スタイルは叩き上げのプロそのものだ。三浦戦では初回にタイムリーな右でダメージを与え、敗色濃厚だった9回には左アッパーからの連打でダウンを奪い、試合そのものをひっくり返してみせた。勝負を諦めない根性と波状攻撃、打撃戦を厭わない戦い方は勇敢なメキシコ選手の典型といえる。ただ、昨年6月のオルランド・サリド(メキシコ)戦でも三浦戦に匹敵する激闘を展開(12回引き分け)、WBCから休養勧告を受けていたため、これが7ヵ月ぶりの試合となる。
挑戦者の立場でリングに上がるベルチェルトは25歳の若さと87パーセントのKO率が売りの新鋭だ。昨年3月にWBOの暫定王座を獲得し、4ヵ月後には63戦(61勝41KO2敗)の経験を誇ったチョンラタン・ピリャピニョ(タイ)から2度のダウンを奪って4回KOで防衛を果たしている。両腕を比較的高く上げた構えからワンツー、左フックを返す基本的な攻撃パターンだが、左はボディと顔面への打ち分けが巧みで、アッパーも交えるなど多彩だ。加えて相手が出てくると足で捌き、出てこないと自ら圧力をかけて出るなど駆け引きにも長けている。
ともにいくつかの引き出しを持ってはいるが、一手や二手で簡単に勝負が決まるとは思えない。ある程度の探り合いのあとは距離が詰まり、ラウンドを重ねるごとにパンチの交換が増え、最終的には打撃戦になるのではないだろうか。3対2のオッズが示すように三浦戦やサリド戦で一定以上の耐久力を証明しているバルガスが有利だが、ベルチェルトの角度のある左が番狂わせを起こす可能性も低くはないとみる。
Written by ボクシングライター原功
TALE OF THE TAPE
三浦 | ローマン | |
生年月日/年齢 | 1984年5月14日/32歳 | 1985年11月14日/31歳 |
出身地 | 秋田県(日本) | シウダー・フアレス(メキシコ) |
アマチュア実績 | 40戦34勝(22KO)6敗 国体少年の部優勝 |
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プロデビュー | 03年7月 | 03年3月 |
プロ戦績 | 35戦30勝(23KO)3敗2分 | 67戦56勝(43KO)11敗 |
KO率 | 約66% | 約64% |
現在のランク | WBC1位 | WBC2位 |
身長/リーチ | 169センチ/178センチ | 165センチ/ ? |
タイプ | 左ファイター型 | 右ファイター型 |
ニックネーム | 「ボンバー・レフト」 | 「MICKEY」 |
バルガス | ベルチェルト | |
生年月日/年齢 | 1984年12月25日/32歳 | 1991年11月17日/25歳 |
出身地 | メキシコシティ | カンクン(メキシコ) |
アマチュア実績 | 08年北京五輪出場 | |
プロデビュー | 10年3月 | 10年11月 |
プロ戦績 | 25戦23勝(17KO)2分 | 31戦30勝(27KO)1敗 |
KO率 | 約68% | 約87% |
現在のランク | WBC世界Sフェザー級王者 | WBO暫定世界王者 |
身長/リーチ | 173センチ/178センチ | 170センチ/180センチ |
タイプ | 右ファイター型 | 右ファイター型 |
ニックネーム | EL BANDIDO(盗賊) | EL ARACRAN(サソリ) |
ヘビー級トップ戦線の現状
WBA SC:ジェスレル・コラレス(パナマ)
WBA :ジェイソン・ソーサ(アメリカ)
WBC :フランシスコ・バルガス(メキシコ)
IBF :ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)※
WBO :ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)
WBO 暫定:ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)
1年2ヵ月前まではWBAのスーパー王座に内山高志(ワタナベ)、WBC王座に三浦隆司(帝拳)が君臨し、遠くない将来に統一戦も期待されていた。しかし、三浦がフランシスコ・バルガス(メキシコ)に敗れ、内山もジェスレル・コラレス(パナマ)に連敗。WBO王座には五輪連覇の実績を持つ「ハイテク」ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)がつき、さらにWBAのレギュラー王座はハビエル・フォルトゥナ(ドミニカ共和国)を逆転TKOで破ったジェイソン・ソーサ(アメリカ)が獲得するなど、このクラスは激動の状況といえる。主役はプロ7戦で2階級制覇を成し遂げたロマチェンコだが、スピードのあるサウスポーのコラレス、攻撃力のあるバルガス、若くて勢いのあるベルチェルトと、なかなか個性的な選手が揃っている。
こうしたなか三浦も貴重なタレントのひとりといえる。今回、ミゲール・ローマン(メキシコ)を下せばWBC王座への挑戦が約束され、返り咲きのチャンスが訪れるだけに絶対に落とせない試合といえる。このほかフェザー級時代にロマチェンコに勝っている2階級制覇のベテラン、オルランド・サリド(メキシコ)、捲土重来を期すフォルトゥナらも力がある。