タフで執拗なマレーを倒せるか
13連続KO防衛狙う王者
10年8月にWBAの暫定王座を獲得したゴロフキンはすぐに正王者に昇格し、ここまでの4年半で12連続KO防衛を果たしている。昨年10月にはWBCの暫定王座も獲得しており、この階級の第一人者であることを強くアピール。WBCの正王者ミゲール・コット(プエルトリコ)にも圧力をかけるかたちになっている。今回の試合でWBC1位のマレーを退ければ、希望するコット戦に向けさらに前進するはずだ。
ゴロフキンは04年アテネ五輪ミドル級で銀メダルを獲得するなど、アマチュアで350戦345勝5敗(国際試合だけで15敗超など諸説あり)を記録後、06年5月にドイツでプロデビュー。9戦目、11戦目、13戦目でいずれも8回判定勝ちに留まったが、それ以外の28試合はすべて規定ラウンド内で仕事を終わらせている。31戦全勝(28KO)という完璧なレコードを誇る。戴冠試合と12度の防衛を含め目下18連続KO勝ちと、まさに破竹の勢いにある。ゴロフキンは単に左右のパンチ力があるだけでなくプレッシャーのかけ方も巧みで、加えてカウンターを合わせるタイミングも絶妙なものがある。アマ、プロ通じて一度のダウンもないという耐久力、ディフェンス力も高い。それでいて研究熱心で真面目なのだから、まさに死角なしといったところである。ゴロフキンは昨年10月、マレーがドメニコ・スパダ(イタリア)を7回負傷判定で下した試合をリングサイドで観戦。「マレーは一流の選手。これまで対戦してきたなかでも最難敵」と気を引き締めていた。
そんな充実の絶対王者に挑むマレーもゴロフキンと同じ32歳で、プロでの試合数も31戦(29勝12KO1敗1分)と同数だ。こちらも見事な戦績だが、KO率は王者の90パーセントに対し約39パーセントと、この点では大きく見劣りする。その代わり身長183センチ、リーチ185センチと体格に恵まれており、この点ではゴロフキン(身長179センチ、リーチ178センチ)を上回っている。ガードを高く上げながら出入りする右のボクサーファイター型で、勇敢さとタフネス、粘りには定評がある。「パワー」というニックネームを授かっているが、これはパンチング・パワーではなく体の馬力を意味しているものと思われる。12連続KO防衛中の王者に対しても臆した様子はなく「彼は数々の強豪を打ち砕いてきたトップ選手。でも勝てるという自信があるから挑戦するんだ」と話している。
ふたりともモンテカルロでは馴染みの選手で、ゴロフキンは石田順裕(グリーンツダ)とのV7戦と昨年2月のオスマヌ・アダマ(ガーナ/アメリカ)とのV10戦をこの地で行っている。一方のマレーも世界ランカーを相手にしての直近の2試合をモンテカルロで行っており、ともに中立のリングということになる。
パンチの破壊力を含め攻撃力で勝るゴロフキンが圧倒的有利であることは疑いようがない。いつものように圧力をかけ、上下に多彩なパンチを散らして攻め落としてしまうことが最も現実的な予想といえるだろう。その一方でマレーの堅牢なガードを崩しあぐね、ズルズルとラウンドを重ねる可能性もある。ゴロフキンが連続KO防衛を13に伸ばすのか、それともマレーが記録を阻止するだけでなく王座をも奪うのか。序盤から目の離せない展開になりそうだ。
Written by ボクシングライター原功
<資料1>連続KO防衛記録
(1)17連続KO防衛 | : | ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ) | SB級 |
(2)14連続KO防衛 | : | ダリウス・ミハエルゾウスキー(ポーランド/ドイツ) | LH級 |
(3)12連続KO防衛 | : | ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ) | M級 |
(4)10連続KO防衛 | : | ロベルト・デュラン(パナマ) | L級 |
: | ナジーム・ハメド(英) | FE級 | |
(6)9連続KO防衛 | : | ヘンリー・アームストロング(米) | W級 |
: | カルロス・サラテ(メキシコ) | B級 | |
: | フェリックス・トリニダード(プエルトリコ) | W級 | |
(9)8連続KO防衛 | : |
ホセ・クエバス(メキシコ)、リカルド・ロペス(メキシコ)、 エデル・ジョフレ(ブラジル)、カオサイ・ギャラクシー(タイ)、 トミー・バーンズ(カナダ)、アーロン・プライアー(米)、 シェーン・モズリー(米) |
<資料2>ゴロフキンのV12の相手と結果
相手・国籍 | 結果 | 試合地 |
ミルトン・ヌニェス(コロンビア) | 1回KO | パナマ |
<WBA暫定世界ミドル級タイトル獲得 ※初防衛戦を前に正王者に昇格> | ||
(1)ニルソン・タピア(コロンビア) | 3回KO | カザフスタン |
(2)カシム・ウーマ(ウガンダ/米) | 10回TKO | パナマ |
(3)ラファン・サイモン(米) | 1回KO | ドイツ |
(4)淵上誠(八王子中屋) | 3回TKO | ウクライナ |
(5)グレゴルツ・プロクサ(ポーランド/英) | 5回TKO | 米 |
(6)ガブリエル・ロサド(米) | 7回TKO | 米 |
(7)石田順裕(グリーンツダ) | 3回KO | モナコ |
(8)マシュー・マックリン(英) | 3回KO | 米 |
(9)カーティス・スティーブンス(米) | 8回終了TKO | 米 |
(10)オスマヌ・アダマ(ガーナ/米) | 7回TKO | モナコ |
(11)ダニエル・ギール(オーストラリア) | 3回TKO | 米 |
(12)マルコ・アントニオ・ルビオ(メキシコ) | 2回KO | 米 |
<WBC暫定世界ミドル級王座獲得> |
<資料3>TALE OF THE TAPE
ゴロフキン | マレー | |
生年月日/年齢 | 1982年4月8日/32歳 | 1982年9月27日/32歳 |
出身地/現在のホーム | カザフスタン/ドイツ | イギリス |
プロデビュー | 06年5月 | 07年9月 |
獲得王座 | WBAミドル級 WBCミドル級(暫定) |
WBAミドル級(暫定) |
アマ戦績 | 350戦345勝5敗(諸説あり) (アテネ五輪ミドル級銀) |
戦績は不明 |
プロ戦績 | 31戦全勝(28KO) | 31戦29勝(12KO) 1敗1分 |
KO率 | 約90% | 約39% |
身長/リーチ | 179センチ/178センチ | 183センチ/185センチ |
タイプ | 右ファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
ニックネーム | 「GGG」 | 「パワー」 |
ゲンナディ・ゴロフキン
ミドル級トップ戦線の現状
WBA SC :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ)
WBA SC :ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)
WBA SC暫定:ドミトリー・チュディノフ(ロシア)
WBC :ミゲール・コット(プエルトリコ)
WBC暫定 :ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ)
IBF :空位
WBO :アンディ・リー(イギリス/アイルランド)
個性的な王者が揃ったホットな階級だが、実績、実力ともゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ)がトップであることに異論を挟む者はいないだろう。攻防ともに穴をみせていないうえ31戦全勝(28KO)、12連続KO防衛という数字も強い説得力を持っている。昨秋、WBCの暫定王座を獲得し、今回はWBC1位のマーティン・マレー(イギリス)の挑戦を受けるため、これをクリアした場合はWBC正王者ミゲール・コット(プエルトリコ)に大きなプレッシャーをかけることになる。
骨肉腫を克服して昨年8月にWBA王者になったダニエル・ジェイコブス(アメリカ)は、戴冠から半年が経つが初防衛戦は決まっていない。WBA暫定王者ドミトリー・チュディノフ(ロシア)は2月28日、元世界2階級制覇王者の息子、クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)の挑戦を受けることになっている。昨年12月にマット・コロボフ(ロシア/アメリカ)を逆転のTKOで破ってWBO王座を獲得したアンディ・リー(イギリス/アイルランド)は4月11日、前王者ピーター・クィリン(アメリカ)との初防衛戦が決まっている。
ランカー陣では、08年北京五輪出場の実績を持つWBO1位のビリー・ジョー・サウンダース(イギリス)、カナダの倒し屋、デビッド・レミュー、IBF1位の元王者ハッサン・ヌダム・ヌジカム(カメルーン/フランス)らが挑戦の機会を待っている。
WBC8位、IBF15位にランクされる村田諒太(帝拳)もこうした強豪の間に割って入るチャンスを探っている。
※15年2/13時点でのデータです