元4階級制覇王者に挑むKO率81%の「マエストリート」
世界挑戦の扉を開くことができるか
147ポンド(約66.6キロ)を体重上限とするウェルター級はヘビー級やライト級、ミドル級などとともに歴史が古く、世界的にも選手層の厚いクラスとして知られる。日本では1952年に故白井義男
氏が初の世界王座をもたらしてから62年、70人を超す世界王者が誕生してきたが、まだこの階級の世界王者はひとりもいない。世界挑戦も竜反町、辻本章司、尾崎富士雄(2度)ら数えるほどだ。亀海はその高く厚い壁に挑もうとしている。今回のゲレロ戦は、その第一関門といえる。
亀海と拳を交えるゲレロはサウスポーの技巧派として知られているが、階級を上げた近年は好戦的な面が目立っている。フェザー級やS・フェザー級時代は173センチの身長と178センチのリーチ、それに左構えのアドバンテージを生かしたボクシングをしていたが、ライト級からウェルター級に上げたここ数年は打撃戦に応じるだけでなく、機をみて自ら接近戦を仕掛けたりもするようになった。WBC世界ウェルター級暫定王座を獲得した12年7月のセルチュク・アイディン(トルコ)戦、4ヵ月後のアンドレ・ベルト(アメリカ)との初防衛戦は、その典型的な試合といえる。さすがにフロイド・メイウェザー(アメリカ)には通用しなかったが、いまやゲレロがウェルター級のトップ選手であることは誰もが認めるところといえる。キャシー夫人が白血病を病んだ際に看病を優先するために世界王座を返上したエピソードは、もう4年も前のことになった。一時はそんな美談が先行しがちだったが、いまは実力派として認知されている。
そんなゲレロを亀海は「巧くて手数の多い選手。フィジカルも強い」と分析している。その亀海は「マエストリート(職人)」を名乗っているが、最大の魅力は26戦24勝(21KO)1敗1分の戦績が示すとおりのハードパンチである。打ち下ろすような右や左フックといった一発の破壊力に加え、ボディブローから顔面への切り返しなどコンビネーションも多彩だ。もちろんディフェンス技術にも長けている。課題を挙げるとすれば、手数で攻め込んでくる攻撃型の相手に対して後手に回るケースが目立つことであろう。勝利を逃した2試合は、いずれもこの悪循環のパターンだった。気になるのは、ゲレロが先手をとって手数で攻め込んでくるタイプである点だ。亀海とすれば早い段階で後手に回るような展開は避けたいところだ。
その一方、ゲレロも後手に回るとリズムを失い、ずるずると失点を重ねることがある。フェザー級時代にガマリエル・ディアス(メキシコ)に判定負けを喫した試合や、無効試合になったオルランド・サリド(メキシコ)との試合などがそれに該当する。亀海とすれば自らが先に前後左右に動いて揺さぶりをかけ、先手をとって圧力をかけながら攻めていきたい。それができれば体格面(身長176センチ、リーチ180センチ)のアドバンテージがさらにプラス効果をもたらすはずだ。「内容のある勝ち方をすれば、先が見えてくる。それを求めてアメリカに行くので、勝つことしか頭にない」という亀海に期待したい。
TALE OF THE TAPE
ゲレロ | 亀海 | |
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生年月日 | 1983年3月27日/31歳 | 1982年11月12日/31歳 |
出身地 | ギルロイ(米国カリフォルニア州) | 北海道札幌市 |
アマ戦績 | 全米ジュニア五輪優勝 16歳時にシドニー五輪 米国予選に出場 | 全日本選手権優勝 69戦57勝(31KO)12敗 |
プロデビュー | 01年4月 | 05年11月 |
身長 | 173センチ | 176センチ |
リーチ | 178センチ | 180センチ |
戦闘スタイル | 左ボクサーファイター型 | 右ボクサーファイター型 |
戦績 | 36戦31勝(18KO)2敗 1分2無効試合 | 26戦24勝(21KO) 1敗1分 |
Written by ボクシングライター原功
フロイド・メイウェザー
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
WBA暫定:キース・サーマン(アメリカ)
WBC :フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF :ショーン・ポーター(アメリカ)
WBO :マニー・パッキャオ(フィリピン)
このクラスのトップ戦線は今春、大きく動いた。4月にマニー・パッキャオ(フィリピン)がティモシー・ブラッドリー(アメリカ)に12回判定勝ちを収めて2年ぶりにWBO王座に返り咲き、IBF王者ショーン・ポーター(アメリカ)は初防衛戦で元2階級制覇王者ポール・マリナッジ(アメリカ)の挑戦を4回TKOで一蹴。
WBA暫定王者キース・サーマン(アメリカ)もフリオ・ディアス(メキシコ)を3回終了TKOで退けて2度目の防衛を果たしている。
5月にはWBC王者フロイド・メイウェザー(アメリカ)が統一戦でWBA王者マルコス・マイダナ(アルゼンチン)に12回判定勝ちで2団体のベルトを手中に収めた。アンダーカードではメイウェザーへの挑戦を熱望するS・ライト級の元世界王者アミール・カーン(イギリス)がウェルター級の元王者ルイス・コラーゾ(アメリカ)から3度のダウンを奪って勝利を収めている。その2週間後には元4階級制覇王者ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)もリングに上がり、前世界S・ライト級王者マイク・アルバラード(アメリカ)に明白な判定で勝ちを収めている。これに32戦全勝(22KO)のIBF1位ケル・ブルック(イギリス)、さらに13ヵ月ぶりの再起戦で亀海と対戦する元4階級制覇王者ロバート・ゲレロ(アメリカ)を加えた10人ほどが現在のウェルター級トップ集団を形成しているといっていいだろう。
これをぴったりとマークしているのが前IBF王者のデボン・アレクサンダー(アメリカ)と、WBC1位のルイス・カルロス・アブレグ(アルゼンチン)だ。ゲレロ対亀海喜寛(帝拳)の12回戦は、こうした状況下で行われるわけだ。亀海が勝てば一気にトップ戦線に割り込むことが確実視されるだけに、今回の一戦は極めて重要な意味を持っている。