東海岸のマジックマン VS 3階級制覇を狙う23歳の天才
飛び級挑戦のブローナーが12対1でリード
ディフェンディング・チャンピオンはマリナッジだが、主役が挑戦者のブローナーであることは誰もが認めるところだ。ただし、そのブローナーにとってもリスクを伴う冒険マッチとなる。WBCのライト級王座を持ったまま2階級上の王座に挑むのである。ライト級とウェルター級の体重差は12ポンド(約5.4キロ)。自他ともに「メイウェザーの後継者」と認める23歳のブローナーは、この体重の壁をも越えることができるのか。
ブローナーは9歳のときに双子のアンドレとともにジムに通い始め、アマチュアでは300戦以上を経験(勝敗数は不明)。08年5月に18歳でプロに転じ、以来26戦全勝(22KO)と完璧なレコードを残している。11年11月にWBOのS・フェザー級王座を獲得し、昨年11月にはWBCのライト級王座もコレクションに加えた。黒星はないが、昨年7月のビセンテ・エスコベド(アメリカ)戦ではS・フェザー級の体重をつくれず、試合前に王座を剥奪された苦い経験がある。当初、ライト級のWBO王者リッキー・バーンズ(イギリス)との統一戦構想があったが、相手陣営が再三再四、防衛戦を延期したため待ちきれずにウェルター級に上げたという経緯がある。今回、3階級制覇を達成した場合も、そのままウェルター級に留まるかどうかは未定だという。スターが揃う1階級下のS・ライト級戦線に割り込む可能性もある。
身長170センチ、リーチ180センチとライト級では平均的な体格だが、2階級上のウェルター級ではサイズの面では見劣りしてしまうかもしれない。天性の勘と巧みなブロック、虚を突く独創的な広角的な攻撃がフレームの大きな相手にも通用するかどうか。
一方、挑戦を受ける立場のマリナッジはイタリア系移民の32歳で、こちらもS・ライト級とウェルター級の2階級制覇を成し遂げている。ウェルター級王座は昨年4月、敵地ウクライナに出向いて持ち帰ったもので、10月には体重超過のパブロ・セサール・カノ(メキシコ)を相手に12回判定勝ちを収めている。しかし、終盤に手痛いダウンを喫するなど内容はもうひとつだった。36戦32勝(7KO)4敗の戦績が示すように、本来は軽快な足さばきとスピーディーな左ジャブで相手を翻弄するテクニシャンだが、気の強さが災いしてかリスキーな打ち合いに応じるケースも少なくない。身長は174センチ、リーチは178センチとウェルター級ではレギュラー・サイズといえる。
テストマッチもないまま一気に2階級アップして挑戦するにもかかわらず、オッズは12対1でブローナー有利と出ている。それほどまでに「メイウェザーの後継者」は高い評価を得ているわけだ。順当にいけばブローナーが中間距離から近距離の戦いに持ち込み、中盤から終盤にかけてマリナッジを攻め落としてしまうだろう。その一方で、マリナッジのスピードとサイズが23歳の天才にこれまでに経験したことのない苦痛を味わわせる可能性もある。挑戦者が前半で流れに乗ってしまえばブローナーの圧勝が濃厚だが、マリナッジがリードするかたちで中盤を迎えるようだと勝負の行方は混沌としそうだ。
Written by ボクシングライター原功
<資料>TALE OF THE TAPE
マリナッジ | ブローナー | |
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生年月日 | 1980年11月23日/32歳 | 1989年7月28日/23歳 |
出身地 | アメリカ ニューヨーク市 | アメリカ シンシナティ市 |
アマ戦績 | 49戦40勝9敗 | 300戦以上(勝敗数不明) |
プロデビュー | 01年7月 | 08年5月 |
プロ戦績 | 36戦32勝(7KO)4敗 | 26戦全勝(22KO) |
KO率 | 約19% | 約85% |
獲得王座 | IBF S・ライト級 WBAウェルター級 | WBO S・フェザー級 WBCライト級 |
ニックネーム | マジックマン(魔術師) | プロブレム(問題児) |
身長/リーチ | 174センチ/178センチ | 170センチ/180センチ |
フロイド・メイウェザー
ウェルター級トップ戦線の現状
WBA:ポール・マリナッジ(アメリカ)
WBA 暫定:ディエゴ・チャベス(アルゼンチン)
WBC:フロイド・メイウェザー(アメリカ)
IBF:デボン・アレキサンダー(アメリカ)
WBO:ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)
実績、知名度を含め総合力でフロイド・メイウェザー(アメリカ)が群を抜いている。9月にはS・ウェルター級のWBA&WBC王者サウル・アルバレス(メキシコ)との対決が控えている。ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)は10月、5階級制覇を狙うファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)の挑戦を受ける。オッズはマルケス有利と出ており、ブラッドリーにとっては正念場となりそうだ。デボン・アレキサンダー(アメリカ)も1階級下からの侵入者アミール・カーン(イギリス)の挑戦を受ける方向で交渉が進んでいる。具体的に12月という時期が出ている。
こうしたなか、21戦20勝(18KO)1無効試合の新たな倒し屋キース・サーマン(アメリカ)がディエゴ・チャベス(アルゼンチン)に挑戦することが決まっている。さらにはマルコス・マイダナ、ルイス・カルロス・アブレグのアルゼンチン勢、IBF1位のケル・ブルック(イギリス)、トップランク社の秘蔵っ子ジェシー・バルガス(アメリカ)らも王座を狙う位置につけている。
忘れてはならないのが元6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)だ。ブランドン・リオス(アメリカ)を相手に11月に戦線復帰予定で、これをクリアすれば再びトップ戦線に絡んでくるはずだ。