オバマ大統領就任記念コンサートライブレポート
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初めてのアフリカ系(黒人)大統領が誕生する歴史的瞬間に立ち会おうと、09年1月20日(火)の就任式には首都ワシントンD.C.に約2百万人の人々が集まったが、ひと足先に就任記念行事の幕を落としたのが、18日の日曜日午後にリンカーン記念館で行われた「ウィ・アー・ワン」コンサートである。50万近い人びとが厳寒の天候の中をつめかけた。
オバマ次期大統領とバイデン次期副大統領と彼らの家族を迎え、音楽界と映画界からの豪華な顔ぶれが集結したコンサートは、オバマ氏就任を祝うお祭りでもあるが、同時に「私たちはひとつ」という題名通りに、困難に直面する国の状況を打開し、より良い未来への歩みを進めるために、国民の団結を呼びかけ、人びとの精神を鼓舞しようとするイベントでもあった。出演者たちは良く知られたヒット曲ではなく、その趣旨にふさわしい曲を選んで歌ったし、その大半が人種や世代、音楽ジャンルを超えたコラボを披露し、「我々は赤い州と青い州の集まりではなく、アメリカ“合州国”なのだ」というオバマ氏の訴えを体現しようとした。
一番手はロック界の大御所ブルース・スプリングスティーン。彼は支援集会や資金集めのコンサートに積極的に出演するなど、オバマ氏を熱心に支援した代表的なアーティストである。ゴスペル・クワイアと共に歌われる<ザ・ライジング>は、選挙中にオバマ陣営のテーマソングとして使われ、シカゴのグラント・パークでの勝利演説の後にも会場に響きわたった。元々は9・11の同時多発テロに反応して書かれた曲だが、ここではアメリカのヴィジョンの「ライジング(復活)」と国民の団結(「君の手を僕の手に重ね」)の呼びかけとして歌われている。
曲間には人気俳優たちが次々と現れ、過去の大統領や運動家の言葉を紹介するが、公民権運動の偉大な指導者だったキング牧師の息子、マーティン・ルーサー・キング3世も登場した。このリンカーン記念館が選ばれた理由は、オバマ氏がリンカーンを理想の大統領として尊敬することに加え、63年のワシントン大行進で、キング牧師が有名な「私には夢がある」演説を行ったのが、まさにここだからである。翌日はキング牧師の誕生日で、彼の業績を称える祝日となっている。
国民がお互いを助け合おうというメッセージそのままの「私を頼って」という曲を歌うのは、今や貫禄たっぷりのR & Bの女王となったメアリー・J・ブライジだ。<リーン・オン・ミー>はビル・ウィザーズの72年の全米No1ヒットで数多くの歌手に取り上げられてきた。
説明の必要もないボン・ジョヴィのフロントマン、ジョン・ボン・ジョヴィとデュエットするベティ・ラヴェットは60年代から活躍するヴェテランR & B歌手。近年のアルバムが高く評価され、再び名前が知られるようになった。<チェンジ・イズ・ゴナ・カム>はゴスペルから転身してソウル音楽の歌唱スタイルを作り挙げた偉大なサム・クックの代表曲。64年の悲劇的な死の後に発表され、「変化がやってくる」というメッセージを携えた公民権運動の重要な賛歌となった。ここで2人は最後の一行をオバマ氏の勝利演説と重ね合わせて「チェンジ・ハズ・カム(変化がやってきた)」と変えている。
ヴェテランのシンガー・ソングライター、ジェイムズ・テイラーが76年のヒット曲<シャワー・ザ・ピープル>を歌うが、途中からR & B歌手ジョン・レジェンドとポップ・カントリー・デュオ、シュガーランドのジェニファー・ネトルズという今が盛りの人気者2人が加わる。ジャンルを超えた共演だが、実のところジャンルは違えど、彼らの世代はおしなべて70年代のシンガー・ソングライターの音楽に強く影響を受けている。
バイデン次期副大統領が労働の尊厳について語った後、ジョン・メレンキャンプが84年のヒット曲<ピンク・ハウス>を歌う。ピンク色のショットガンハウス(貧困層が住むとみなされる狭い住宅)を庶民の暮らしの象徴にした人気曲で、貧困を争点にしたジョン・エドワーズ元上院議員が04年と08年に大統領をめざした予備選の集会でテーマソングに使ったのに対し、レーガン大統領から08年のジョン・マケイン上院議員まで共和党の政治家も使おうとしたが、民主党支持のメレンキャンプが拒否してきた曲でもある。
クイーン・ラティファがこの場所と人種差別にまつわる逸話を紹介する。39年にコントラアルト歌手のメリアン・アンダーソンは肌の色のためにホールに出演できず、このリンカーン記念館前の階段で7万5千人の聴衆に向かって歌ったのである。そのときに歌われた<マイ・カントリー・ティズ・オブ・ジー>が、クラシックとポップをクロスーヴァーして活躍するジョシュ・グローバンとヘザー・ヘッドリーが歌う。ヘッドリーはトリニダッド・トバゴ出身で、トニー賞を獲得するなどブロードウェイで注目され、02年にR & B歌手としてアルバム・デビューした。
シェリル・クロウ、ハービー・ハンコック、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アム、それぞれロック、ジャズ、ラップの人気者がジャンルを超えたコラボで、レゲエのボブ・マーリーの代表曲<ワン・ラヴ>を歌う。ウィル・アイ・アムがオバマ氏の演説からの引用を組み合わせた曲を作り、有名人を大挙参加させたヴィデオ<イエス・ウィ・キャン>がユーチューブで大ヒットとなり、若者層にオバマの「変化」のメッセージを広げたことは皆さんご存知だろう。
ここでゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズが登場。父親が軍人だったタイガーが海軍兵学校男性合唱団を紹介し、彼らと共にクラシック界を代表するソプラノ歌手のルネ・フレミングが歌う。この<ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン>は45年のミュージカル「回転木馬」からの曲だが、今では英国プレミア・リーグのリヴァプールFCをはじめ、FC東京も含めた世界中の多くのフットボール・クラブの応援歌となっている。
この日の思わぬハイライトのひとつとなったのが、カントリー界のスーパースター、ガース・ブルックスだ。カントリー音楽界の大半は共和党支持なので、このコンサートでの存在感は薄い。そこで大物のブルックスに出演を依頼したわけだ。彼は共和党支持だが、妻のトリーシャ・イヤウッドは民主党支持であり、党派にとらわれることをよしとしないようだ。そんな彼の出演はオバマ氏の党派を超えた協力を求めたいとする姿勢に響き合う。
ブルックスは3曲のメドレーを披露。まず歌うのはドン・マクリーンの72年のNo1ヒット<アメリカン・パイ>で、00年にマドンナがカヴァーしたことでも知られているだろう。老いも若きも誰もがこの曲を知っているようで大合唱が始まる。続いては、59年のアイズレー・ブラザーズのヒット曲<シャウト>で、人の海のような大観衆が飛び跳ね、その手が一斉に上がるのは壮観だ。そして彼自身の<ウィ・シャル・ビー・フリー>で締めくくられるが、これは92年のLA暴動に反応して書かれた同年のヒット曲である。
選挙戦中に支援集会にも参加し、民主党大会にも出演するなど、熱心なオバマ支持者として知られるスティーヴィー・ワンダーは、R & B歌手のアッシャーとコロムビア出身のラテン・ポップ歌手シャキーラと共に、彼の73年のヒット曲で、スピリチャルなメッセージを持つ<ハイアー・グラウンド>を歌う。彼のヒット曲の数々はオバマ夫妻が聴いて育ってきた音楽であり、選挙中は彼の<サインド・シールド・デリヴァード>が夫妻のテーマソングとしてよく集会でかけられた。
オバマ当選はキング牧師の夢の実現でもある。アイルランドからやってきたU2がキング牧師に捧げた有名な曲、84年の<プライド>を歌う。ボノは前日のインタヴューで、「誰かオバマのOにアポストロフィをつけるのは忘れたんじゃないか? 僕らにとってオバマはアイルランド人だ」(アポストロフィ付のOで始まる名字はアイルランドに多い)とジョークにしていたが、ここでも曲間に「アメリカの夢であるだけでなく、アイルランドの夢であり、ヨーロッパの夢であり、アフリカの夢であり、イスラエルの夢であり、[少し間をおいて]パレスチナの夢である」と、オバマのヴィジョンを世界が歓迎していると語ったのだ。次いで<シティ・オブ・バインディング・ライツ>が歌われたのは、オバマ氏が07年2月に大統領選出馬を正式に表明したときに流された曲だからである。
そして、コンサートも最終盤を迎え、これだけ豪華な出演者もその前では霞んでしまうカリスマが壇上に立つ。オバマ次期大統領のスピーチは、アメリカが直面する問題は簡単には解決しないと念を押しながらも、「米国では何でも実現可能だ」と強調し、「建国者の夢はわれわれの時代に生き続けるだろう」と国民に勇気を与えるものだ。
主役の登場が終わっても、まだパーティーは終わらない。ブルース・スプリングスティーンが、今度はフォーク音楽界の父である御年89歳のピート・シーガー(と孫のタオ・シーガー・ロドリゲス)を伴って再登場。シーガーの親友でもあったフォークの元祖ウディ・ガスリーが作った「民衆のための国歌」とも呼ばれる名曲<我が祖国>を聴衆と大合唱する。シーガーは50年代のマッカーシーの赤狩り時代にブラックリストに載せられた人だけに、大統領の就任記念行事に出演する姿は感慨深い。またここで彼らは一般にはあまり歌われていない連も含む、ウディの書いた歌詞すべてを歌う。「ここは私有地だと断る看板があった/でも、その裏側には何も書いてなかった/こっちの側が君と僕のためのもの」というウディの左翼的な思想が明白に表われた連も歌われたのだ。
そして、コンサートを締めくくるのは、それにふさわしい今をときめくスーパースターのビヨンセだ。第二の国歌的に親しまれている国民の愛唱歌<アメリカ・ザ・ビューティフル>を美しく歌い上げて、コンサートの幕は下りた。
音楽評論家・五十嵐正
(09年1月「スプリングスティーンの歌うアメリカ」刊行)





Kevin Mazur / HBO









