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ヒューの初司会としてのホスト振りも予想以上に素晴らしかったが、今年アカデミー賞が試みた一番のアイデア賞は、主要部門各候補者たちの紹介の仕方にあった。
私的でハートウォーミングなアカデミー賞をうたい文句にしていた今回のアカデミー賞授賞式だが、この新しい受賞発表の形式は、本授賞式のシンボル的主柱ともなった素晴らしい演出であり、本年度から製作指揮に任命されて見事な才能を発揮したローレンス・マーク氏とビル・コンドン氏には、賞賛の拍手を送りたい。
さてアカデミー賞の受賞陣についてだが、ひっくり返るような番狂わせはなかったものの、主要部門の中で少々意外だったのは、ショーン・ペンの主演男優賞受賞と、最多ノミネーションだったにもかかわらず、肩透かしも最多になってしまった、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の受賞数の少なさだった。
主演男優賞については、賞レース後半に入り、デッドヒートを繰り広げるのはミッキー・ロークとショーン・ペンだとうわさされていた。数週間前に行われたSAG(全米俳優組合)アワードではショーンが主演男優賞を受賞したが、往々にしてアカデミー賞へ直結すると評判のイギリスの英国アカデミー賞ことBAFTAの主演男優賞はミッキーが受賞したことを受けて、アメリカのアカデミー賞はミッキーが受賞するのでは……と思っていた関係者も少なくなかった。
だが、「ミルク」でのショーンのパフォーマンスは、アカデミー賞に値するほどのものだった。ショーンの役どころは、アメリカで初めてゲイであることを隠さずにサンフランシスコの議員として当選し、その後キャリアの頂点で暗殺されてしまったハーヴェイ・ミルクという実在の人物。ゲイ公民権問題だけでなく、正義と人類平等の尊さを語った同作品は、ショーンを筆頭に助演陣のジェームズ・フランコやエミール・ハーシュも、助演男優賞にノミネートされていておかしくないほどの素晴らしい演技を見せていた(「ミルク」からの助演男優賞のノミネーションはジョシュ・ブローリンのみ)。もしも今年「スラムドッグ$ミリオネア」がなかったら、作品賞も監督賞も「ミルク」が受賞したかもしれないと思うほど、秀逸した作品である。
この映画をきっかけに、「スラムドッグ$ミリオネア」に出演した貧しい子どもたちが、地元で学校に行くチャンスが与えられ、ムンバイの観光産業も盛り上がりを見せ始めているという。どちらもうれしい話であり、映画が困難な生活を強いられている貧しい世界に一筋の希望の光を投影できるのは、とても心が温まることだ。
これまでのサムライに着物……という日本映画のステレオ・タイプ的なワクから飛び出し、日本ならではの感性で万国共通の思いを語りかけた両作品。彼らのオスカー受賞をきっかけとして、世界の日本映画へ向けるまなざしが変化・向上し、これから日本映画界の新しい時代が始まるのではないだろうか。
世界的な不況など暗いニュースが多いが、きらびやかで娯楽にあふれた今年のアカデミー賞は、まさにザッツ・エンターテインメント! 暗雲を吹き飛ばし、一瞬憂いを忘れ、娯楽たるものこうでなくてはいけない! という気持ちを思い出させてくれた素晴らしいショーだったと言えよう。