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検察の歴史

最強の捜査機関―。
永田町や霞が関の汚職事件、さらには大型経済事件を扱う東京地検特別捜査部はこう呼ばれ、権力者たちから畏怖されてきた。

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

全国に50ある地方検察庁の中で、特別捜査部(特捜部)が置かれているのは東京、大阪、名古屋の3地検だけしかない。その中でも東京地検特捜部は、実績や陣容で他の特捜部を圧倒する存在だ。

また警視庁捜査二課も同じく汚職や経済犯を扱う強力な捜査機関ではあるが、国会議員や中央省庁の幹部、大企業のトップなどが対象となる事件を彼らが単独で扱うことはまずない。そうした意味でも、権力者が最も恐れる存在が東京地検特捜部なのだ。

試しに過去の汚職事件や大型経済事件を振り返ってみればいい。ロッキード事件、リクルート事件、東京佐川急便事件、金丸信・元自民党副総裁脱税事件、ゼネコン汚職事件、大蔵省接待汚職事件、ライブドア事件、村上ファンド事件……。これら世を驚愕させた大事件の数々は、いずれも東京地検特捜部が捜査し、政界の実力者や経済界の大物を起訴・有罪に持ち込んだ事件だ。

彼らに起訴されれば一審で有罪となる確率は99%以上。特捜部の検事たちは、司法試験を突破した法律知識と現場で鍛え上げた捜査力を武器に、放っておけば腐敗しかねない権力に常に睨み利かせ、いったん腐臭を嗅ぎ付けたならばすぐさまその病巣にメスを差し込む。かつての検事総長で“ミスター検察”と呼ばれた伊藤栄樹は部下たちに「巨悪は眠らせない」と檄を飛ばしたが、権力に切り込む特捜検事たちの矜持はまさにこの言葉に表されていると言っていい。

東京地検の活躍がもっとも注目されたのは、当時の前首相・田中角栄を逮捕・起訴したロッキード事件だろう。

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

発端はアメリカ上院多国籍企業小委員会の公聴会だった。1976年2月に開かれたこの公聴会の席で、ロッキード社の会計監査人が日本の政財界に隠然たる影響力を持つ大物右翼・児玉誉士夫に表に出ていない多額のコンサルタント料を払っていたことを証言した。「日本の黒幕」児玉に突如として脱税の疑いが持ち上がり、日本中が騒然となった。

アメリカから火を噴いた大スキャンダルに東京地検特捜部も色めきだったが、具体的な資料はアメリカにしかなく、このままでは捜査が進展しない。法務省・検察庁はアメリカ側と粘り強く交渉を続けた。そして米連邦証券取引委員会が持っていた極秘資料を提供してもらう約束をなんとか取り付けた。

ところがこの極秘資料はロッキード社が自社の航空機売り込みのために世界各国で展開した裏工作にかかわった人物が記されたもの。中身が公になると困る大物が世界中にいる。資料をマフィアが狙っているとの情報もあった。

資料引き受けには予想もできない危険が伴ったが、その任務遂行のため日本から東京地検の検事2名が渡米した。日本のマスコミは彼らの動静を必死に追った。が、マスコミの苦労は無駄骨に終わった。なんと渡米した検事はダミーだったのだ。彼らとは別に、ラフな服装に身を包んだ2名の検察事務官が密かにアメリカにわたり極秘資料を受け取っていたのだ。彼らは変装までしてワシントンに入り、人目につかぬよう郊外のモーテルに潜伏し、スパイ映画さながらの隠密行動をとっていたのだ。

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

ロッキード事件:毎日新聞社/アフロ

持ち込まれた極秘資料の解析は、7名の検察首脳の手によって最高検察庁会議室で行われた。資料の中にロッキード社最高幹部が書いた対日売り込み工作の人脈図があった。働きかけの方向を示していると思われる矢印が集中している先に「Tanaka」の文字があった。事件が、前首相の逮捕に向かい始めた瞬間だった――

ここで東京地検特捜部の陣容に触れておこう。

30~40名の検事は、政界汚職などを扱う独自捜査部門の「直告・特殊班」、証券取引等監視委員会や公正取引委員会からの告発や警視庁が手掛けた汚職事件などの“受け”を担当する「経済班」、脱税を専門に扱う「財政班」に配置される。

もっとも注目を集めるのは「直告・特殊班」の検事だ。新聞、雑誌、情報紙にくまなく目を通し、時にはアングラ人脈にも接触しながら事件の端緒を探し出す。その積み重ねが特捜検察の数々の栄光を築いてきたと言ってもいい。

またロッキードの秘密資料受け渡しで活躍した検察事務官も、特捜部の活動を縁の下で支える重要な任務だ。テレビに映し出される強制捜査のシーンで、スーツ姿にダンボールを抱えて動き回っているのが彼らである。検事の仕事を補佐するのが主な任務だが、ベテランになると検事よりも有能な場合も珍しくない。

こうした特捜部の一挙手一投足は、当然マスコミにとっては最大の関心事になる。新聞社やテレビ局は、特捜部を担当する司法記者クラブに自社の社会部のエリート記者を送り込む。検事にとって特捜部がそうであるように、記者にとっても司法記者クラブが花形部署なのだ。

リクルート事件:読売新聞/アフロ

リクルート事件:読売新聞/アフロ

それだけにライバル社との「抜きつ抜かれつ」の競争は熾烈だ。だたでさえ特捜部の取材は一筋縄ではいかない。彼らが接触を認められているのは特捜部長や副部長のみ。一線の検事への取材は禁じられているからだ。ヒラ検事に接触したことが幹部にバレた場合にはその記者は特捜部出入り禁止になってしまう。

それでも各社の精鋭たちは、最前線で奮闘する検事に食い込みスクープ合戦に鎬を削ってきた。

特捜部が情報のコントロールに神経を尖らせるのは、捜査に最大限の秘匿性を求められるからだ。事前に捜査情報が漏れると、捜査対象が逃亡したり証拠隠滅を図ったりする恐れが出てくる。あるいは事実を封印するために自殺してしまうこともある。

そしてそれ以上に、捜査の過程で捜査対象者が誰かが報じられてしまうと、その相手を断罪しないことには世論が納得しなくなってしまう。権力者に事情聴取をしておきならが犯罪の事実が認められなかったり証拠が不十分だったりして立件しない場合もあるのだ。不要な世論喚起をしないためにも、特捜部は捜査情報の秘匿に神経を使うのだ。

このように緻密に見えた検察の捜査だが、実はその行動を子細に見ていくと様々な矛盾、ほころびが見えていた。

特捜部の捜査は、まずは少ない証拠や資料をもとに幹部が「スジ読み」を行う。つまり事件のストーリーを予想し捜査を始めることになる。いかに現実に即したスジ読みができるかどうかが検事の腕の見せどころなのだが、当然、複雑な事件の真相を的確に読み切ることは至難の業だ。

勢い、関係者を事情聴取しスジ読みと違う供述が飛び出すと、スジに合わせようとして強引な取調べが行われることもある。スジ読み通りに自白させるのが、特捜検事としての評価につながる風土があったからだ。

リクルート事件:読売新聞/アフロ

リクルート事件:読売新聞/アフロ

そのため相手に心理的圧迫を与えるような取調べが横行した。1993年に発覚したゼネコン汚職の捜査では、取調べの際に参考人に全治3週間のけがを負わせる事件まで起こし、検察は批判を浴びた。

事件に着手したものの、想像したような事実を発見できず、振り上げたこぶしの下ろしどころに困るような事件がいくつもあった。その場合は、事件としてなんとか恰好のつく落としどころを探ることになる。政財界の大物の名前が取りざたされながら、秘書などの周辺者の起訴のみで終わってしまう「大山鳴動して鼠一匹」的な結末だ。

それでも「検察は正義の味方」との社会の信頼はかろうじて保たれてきた。

だが、陸山会事件の捜査で捜査報告書に虚偽の内容を記載していたり、厚労省元局長が逮捕された郵便不正事件で、証拠資料のフロッピーディスクの情報を故意に操作していたりしたことが発覚し、ついに特捜検察の威信は地に堕ちた。かつては裁判所も検察の供述調書に絶対の信頼を置いていたが、その神通力はもはやない。

特捜検察は裁判所や国民からの信頼を失い、文字通り存続の危機に瀕した。しかし「巨悪」を摘発してほしいという社会の要請までなくなったわけではない。猪瀬直樹・前東京都知事が徳洲会グループから5000万円の提供を受けていた事件、渡辺喜美・みんなの党代表が大手化粧品メーカー・DHCから計8億円を借りていた案件など、国民の目には「不可解」としか映らない政治とカネの問題は次々と浮上してくる。その実態を解明できる機関は、事実上、特捜部をおいて他にない。

果たして特捜部は正義を追及する機関として再生できるのだろうか。旧来のスタイルはもう通用しない。新しい特捜検察を作り直すため、検事一人ひとりの覚悟がいま問われている。

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